第二話 気になるモテ期

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「真木茄 澄央。私は九蔵に会いにきたのだ。店内に入らずに九蔵に会うにはどうしたらいいんだい?」 「ん? ココさんいないスよ」 「誘拐かな? 身代金と犯人を仕留める用意が私にはあるのだよ」 「笑顔で怖いこと言うイケメングッジョブ。でも誘拐はされてねース」  澄央に目的を尋ねた笑顔のまま、内なる悪魔が漏れてしまったニューイである。  いるはずの人がいないのは誘拐だと、お昼の情報番組で見たのだ。 「ふむ……しかし、誘拐じゃないならなぜ九蔵がいないのだ? 九蔵は確かに今日はアルバイトで、朝からいつもと同じ時間に出かけて行ったのである……」 「へぇ。ココさんは今日のシフトに入ってねーッスから、それはおかしいスよ」 「な、なんと……!」 「臭うスね……」  キューン、と眉を下げてしょんぼりするニューイに、澄央は顎に手を当ててしばし思索を巡らせた。  澄央を見つめるニューイは、九蔵の不在から悲嘆に暮れる。  シフトに入っているのに九蔵がいないのであれば、九蔵はなにかしらの事件に巻き込まれてうまい屋にたどり着けなかっただけだろう。  しかしシフトに入っていないのであれば、九蔵はニューイに嘘を吐いてどこかに出かけてしまったことになる。 「う……うぅ……九蔵……私をのけ者にしたかったのかい……? お休みなのにどこかへ行ってしまうなんて……それも私に言えないどこかに……うっ……センタクキに勝てない私なんて要らないのかい……っ」  べそべそ、べそ、カラカラン。  寂しさのあまり骸骨頭に戻ってしまったニューイへ、澄央が「ワオ」と目を丸くしてあたりをキョロキョロする。  当然ニューイは気づいていない。なんてったって愛しの九蔵からのけ者にされたのだ。  これが嘆かずにいられようか?  否である!  骨も尻尾も翼も露呈し始めたデーモンを、澄央が上着で気持ち隠した。八割は丸見えだが、顔さえ隠せばハイクオリテイなコスプレイヤーでまかり通るだろう。 『うっ……ううっ……』 「骸骨の中身が黒すぎて見えないス。どういう仕組み……じゃねぇや。ニューイ、ニューイ」 『うっ……?』  澄央に呼びかけられて顔を上げる。  真っ黒な眼窩からチマリと涙もどきが漏れるニューイ。  そんなニューイを前に、澄央はキュピンとなにやら閃いた様子で凶悪な三白眼を輝かせ、人差し指を立てた。 「ニューイは確か、ココさんの居場所を探れるんスね?」 『う、うむ。しかし悪魔能力をあまり使ってはならないと躾られているのだ』  数多の人間から九蔵の魂を嗅ぎ取ったニューイは、魂の匂いを辿って九蔵に会いに行くことができる。宛らGPSだ。  ただ、九蔵(飼い主)から〝人間らしく〟と厳命されているので、普段は九蔵の居場所を探ったりしない。  そう説明すると、澄央は立てた人差し指をチッチと左右に振った。そして実に真剣な表情で臆することなく、骸骨ニューイと額を集める。 「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないスね。よく聞くんスよ」 『む?』 「友達がいない超インドアなココさんがオタ活以外で出かけるなんて、奇跡ス。それも、秘密。オタ活なら隠す必要ないス。おかしいス。事件の香りがビンビンッスね」 『びんびん……?』 「事案フラグフル勃起ス」 『ああ、勃起。エレクト』  ビンビンには小首を傾げたが、勃起は変わり行く現代語に疎いニューイでも知っている言葉だ。  ニューイは笑顔で頷く。  澄央も真顔で頷く。
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