第二話 気になるモテ期

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 一方その頃。  まさか悪魔と友人が結託してストーカー行為を始めているなんて知らない九蔵は、パーフェクトイケメンこと桜庭と、まるでデートのような休日を満喫していた。  目的だったショッピングを終え、余った時間をのんびりと過ごす。  ゲームセンターで遊んだあとは雑談に花を咲かせつつ、おしゃれなカフェにてランチタイムだ。  ミルク味が好きな九蔵は四種の濃厚チーズグラタン。桜庭はツナコーンパスタを嗜む。 「いや、驚いた。九蔵はゲームが凄く上手いんだな」 「まあ、ちょっとやるだけだからそんなことねーよ。桜庭だって、ゾンビバンバン倒してただろ?」 「そう? ああいう狙って撃つゲームは得意なんだ」 (うっ)  ふふ、と色っぽく微笑む桜庭に、九蔵はドキ、と胸を高鳴らせた。  顔がいい人類ならば男女関係なく下は中学生から上は還暦まで持病のメンクイを発病する九蔵なので、桜庭の微笑みは心臓に悪い。  それはもちろん九蔵だけでなく、周囲からも視線を感じる。みんな桜庭を見てしまうのだ。激しく同意する。  部外者ならば、だが。  色素の薄いイケメンのどこか色っぽい笑みは、九蔵を始終緊張させる。  恋愛的なものではなくただ美しいものを見て興奮するだけだけれど、脳内で何度絶叫したかわからない。  それでも九蔵がイケメンという概念に出会った時に思い出すのは、なかなかどうして、ニューイのことだった。  ──ニューイは、ホラーは大丈夫っぽい。でも狙撃とか無理そうだよな。  恥ずかしながらもはや癖に近い。  近頃の九蔵は、ふとした時にニューイを引き出してしまう。 (つか筐体潰しそうだからゲーセン自体まだ連れて行けねーけど……いつか行ったら、壊れそうにないやつやらせてみるか。なにがいいかね。ダンスラボ、ダンラボとか?) 「くく……」 「…………」  思わず自然に頬が緩む。  すると桜庭は九蔵が気がつかないほど、ほんの少し動きを止めた。  すぐに色めかしい笑みに変わったので蜃気楼と化してしまったが、確かな反応だ。 「かわいい笑顔だが、誰を思い出したものなのかな? 妬けるね」 「いっ!? ……ははは。からかうなよ。同居人を思い出しただけだ」  桜庭は上目遣いで九蔵を伺い、九蔵の気を引くように甘く唇を動かした。  大人の余裕に溢れた桜庭からスムーズに放たれたジャブに、九蔵は致命傷を負って赤くなった頬をこする。 (ひ~……っこのパーフェクトイケメンめ……っ。アンタの軽率なセリフで陰キャオタクは簡単に死ぬってよ……っ) 「からかってないって言ったら?」 「勘弁してください」  挑戦的な追い打ちに、ノックアウトされた九蔵は爆速で平服した。  いやもう、お手上げだ。  儚げ美人系イケメンがニヤリと笑うな。その効果音とのギャップで死ぬ。  二次元イケメンなニューイのように重すぎず、現実的に冗談程度で済みそうなものをサラリと与える桜庭。  非の打ち所のない対応だった。  エクセレント。  勘違いが起こる女性相手ではなく男の九蔵相手だからしているのだろうが、どちらもウェルカム九蔵さんには勝ち目がない。
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