第二話 気になるモテ期

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「はー……まぁ、いいけど……俺で遊ぶのは、控えてくださいな……」  グラタンをスプーンですくって、もそ、と口に含み咀嚼する。  桜庭のこれは病気だ。  ランチタイムだけでなく、ショッピング中も、ゲーム中も、ずっとこうだった。  合流した時は、自然と九蔵の手を握ろうとしたので反射的に仰け反って避けた。  失礼な態度に青ざめたが笑ってくれたので、内心イケメン神を拝んだ。  目的の物を買い終えたあとも手こそ繋がれなかったが距離が近い。  肩が触れ合いそうな距離だ。  さりげなくバックパックを肩にかけて距離を取ったが、それもニコリとかわし腕を引かれ、車道側に立たれる。  九蔵はイケメン神を拝んだ。  ゲームセンターでは気がつけばコインを投入しまくられ、景品を全て献上しようとすれば「じゃあ帰りまで預かっておく」と茶目っ気たっぷりに笑われる。  それでは単に荷物を持ってもらっているだけだ。やんわり甘やかされているじゃないか。  九蔵はイケメン神を恨んだ。  ちなみにイケメン神は架空の神である。  他にもキリがないモテ男の行動をすべからく〝からかわれている〟ととっている九蔵は、心臓が酷使され過ぎて気が気でない。 (若干わざとっぽいけど……ま、流石に顔色までは隠せねーから、面白がられてんのかね)  モグモグとグラタンを照れ隠しに食べ続ける。そんな九蔵を見つめながら、桜庭はやれやれと肩を竦めてパスタを巻く。 「察しはいいのに、ガードが堅いのか、俺が眼中にないのか……」 「ん? ごめん。グラタン嚙んでて聞き取れなかった」 「よし。じゃあよく聞いて」  チョイチョイと手をこまねいて耳を貸すよう指示され、九蔵は素直に耳を傾けた。  もちろん目はつぶっている。  うっかり至近距離で見つめてしまったら挙動不審のオンパレードだからだ。  桜庭の唇が近づけられ、ふ、と微かな吐息を感じ、くすぐったい。 「俺は九蔵が──」 「お待たせいたしました! ごろごろ野菜のシチューと、自家製生麺のカルボナーラ。ハニーチーズピザと、ミルクカレーリゾット。トマトクリームロールキャベツと、エッグスラットランチ。抹茶ミルクレープと、スフレ風プリンジェラート添え。ヨーグルトチーズティーと、ミルクセーキでございます!」 「「はい?」」  お待たせいたしました?  いや待っていないが?  いきなり割って入った第三者の明るい声に、九蔵と桜庭は思わず首を傾げてユニゾンしてしまった。  慌てて目を開くと、そこそこ広めのテーブルの上にドンドンドンッ! と並べられる料理たちが見える。注文した覚えがない。  桜庭を無言で見つめると、無言のまま首を横に振られる。  九蔵と桜庭が戦慄の表情で静かに店員の女性を見上げれば、彼女はニコリと素晴らしい笑顔で愛想よく言った。 「あちらにいらっしゃったお客様からです!」  ここはいつからバーになったんだ。  女性店員の指すほうを見るが、そのテーブルはすでに無人。容疑者不明。  聞くに、九蔵たちにミルク系料理を注文しまくった上で去って行ったらしい。  困惑のあまり一言も発していない九蔵と桜庭を置いて、女性店員は「お代はすでに頂戴しておりますので、ごゆっくりお楽しみくださいませ!」とやはり素敵な笑顔で戻ってしまった。
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