第二話 気になるモテ期

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  ◇ ◇ ◇  ニューイのお仕置きタイムが終わった頃。  澄央からなぜ自分たちがここにいるのかの説明を、澄央たちに都合のいいように教えられた九蔵の前には、桜庭──だった、一匹のネズミがいた。  もちろん比喩表現ではない。  まごうことなくネズミだ。  強いて言うなら尻尾がトカゲのように長く、骨でできた翼に蜘蛛の巣のような被膜が張ったものが背に生えている。  しかし一応ネズミで間違いないだろう。  九蔵は見れなかったものの、妙に怒り狂っていたニューイのお仕置きを受けたネズミは、ニューイの手の上で不貞腐れたように座っている。  申し訳なさそうに眉をしょげさせるニューイは、ズズイ、と手を突き出した。 「ズーズィだ」 『翼ネズミのズーズィ様でーす。気安く呼んだら骨まで食い尽くしちゃうかんね? 崇め奉って。人間ども』 「「うわぁ……」」  悪魔姿のニューイ同様脳内に直接響くズーズィの声。九蔵と澄央が同時にドン引きの声を上げる。  まじまじとズーズィを見つめると、ニューイは増してすまなさそうに、シュン……、と肩を丸くした。 「ズーズィはこのとおり、ひじょうに口が悪いのだ。私は慣れているが、嫌な気持ちにさせてしまい申し訳ない」 『あら~ん? ニュっち困ってんの? あはっ。アホボケカスチビクソ人間~。お前の母ちゃんデーベーソー』 「そしてズーズィは私を困らせるのが趣味である」 「「あぁ~……」」  またしても九蔵と澄央が同時にドン引きすると、ニューイは頭を抱えて「ズーズィに魂探しがバレた、過去の私の罪なのだ……!」と嘆いた。  まぁ、九蔵はこの程度の罵倒ならなんとも思わない。小学生とほぼ同じだ。  しかしニューイを困らせるのが趣味というのは、なんとも性根がひねくれている。  曰く、桜庭として九蔵に手を出したのも、ニューイが夢中になっている魂を奪ってやりたかっただけらしい。  九蔵の好きなイケメンに姿を変え、九蔵の好きな漫画を調べ、典型的なモテ男のスペックをゲットし、それらをちらつかせて自分に惚れさせようという作戦だった。  しかしメンクイのくせに予想外にガードが堅い九蔵が、ちっとも揺らがない。  意地になって悪魔の能力を使ったズーズィ。ただの人間である九蔵は、悪魔の能力で誑かされれば多少その気になってしまっただろう。  けれど、二つ目の予想外が発生。  ニューイが割と……いや、かなり近くにいたことだ。  自分の目をつけた魂を独り占めしたがる性質がある悪魔は、その魂にちょっかいを出されるとなんとなくわかると言う。  そして悪魔界のご法度は──他人の目をつけた魂に手を出すこと。  悪事を働いてナンボという悪行推奨の悪魔界において、他の悪魔が目をつけた魂に手を出すことだけは「流石に殺されても文句は言えねぇぞ」というレベルの禁忌だそうだ。  九蔵の魂は、味、色、形、匂い、どれをとっても最高品質の素晴らしい魂(ニューイ談)だった。  にも関わらず九蔵が他の悪魔に手を出されなかったのも、前世からニューイが目をつけていたからである。 『でなきゃアレくんの魂なんか入れ食いパターンに決まってんじゃん』 「マジでか」 「大マジなのであるよ」 「ココさんモテモテスね」 「嬉しくねぇ」  自覚はなかったが、知らず知らずのうち、結果的に守られていたらしい。
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