第二話 気になるモテ期

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『アレくんってニュっちのこと好きじゃねーじゃん? 悪魔だし、さっきビビってたじゃん? なんでやなの?』  地面のズーズィは意味がわからない様子で、しゃがみこむ九蔵をキョトンと見上げる。  そんなに見られると恥ずかしい。 「まぁ、好きとか……俺は臆病だから、そーゆーのは、認めるのに時間がかかるってか……ただ悪魔だけど、ニューイがめそめそ泣くのはやなんだよな」 『ハァ?』  曖昧な返事をするが、目ざといズーズィの視線が厳しくなった。  ぶつかっても歩み寄ってくれたニューイによって硬い殻にヒビが入った九蔵の心。そのヒビを察したのだろう。 『アレくんさー。悪魔とのラブを、漫画とかアニメと一緒に考えてね?』 「は? いや」 『悪魔と結婚するって、ンなチョロくねーの。こっちにもイロイロあるし』 「あー……うん。まぁ、たいへんだろうってことは結構考えてるけどな」 『だろうじゃねーの』  チクチクとトゲのある言葉で九蔵を責めるズーズィは、いっそう視線を強くした。 『不器用ニュっちと違って、ボクって擬態のプロフェッショナルなわけ。お望みとあらば大小性別種類、どんな姿にもなれちゃう。だから人間の世界は、暇つぶし感覚で散々見てきた』 「へぇ」 『で。人間って、ムダが多くてクッソ弱ェんだよネ』 「それは、確かに」 『ニュっちはあのとおりクソクソ真っ直ぐだから、そのムダと弱さに振り回されるし、ソレを補完するためにスゲー必死』 「そうだろうなぁ」 『そ、う、な、の!』 「うおっ!」  ズーズィはパチンッ! と瞬き一つで般若の顔に変身し、いきなり九蔵に近づいた。すぐに戻ったが流石に肝が冷える。  般若のドアップ。  アホバカマヌケと言いながらケタケタ笑うのはやめてほしい。ニューイに消耗させられたはずなのに、振り絞って変身したようだ。 『んまぁそういうことでー、ボクはゼッテーそんなの許さねーの。アレくんナンパしたのなんか、嫌がらせ込みのバドエン回避ですしぃ? リアル悪魔舐めんなってカンジ』  チューチューと威嚇された九蔵は、わかったわかったと何度も頷いた。  般若はもう嫌だ。要するにズーズィは〝人間相手だと悪魔のニューイに迷惑がかかるから、半端な気持ちで近づいてほしくなかった〟らしい。 『ホントにわかってるワケぇ?』 「あぁ、約束する。もし(・・)俺がこの先、アイツと契るって決めたとしたら……軽い気持ちじゃなくて、本気だぜ。アイツだけが苦労しないようにアイツのことを大事にする」 『お? お、おお〜……!』  九蔵が頷くと、ズーズィはネズミの姿で満足気に腕を組んだ。かわいい。  ……うすうす思っていたが、ズーズィはニューイをかなり大事に思っているのではなかろうか。  おそらくニューイイジメが趣味なのは本当だとは思う。  けれどそれは滅多に怒らないニューイを怒らせたり泣かせたり反応させるのが面白いから。本人的には遊んでいるだけな気がする。  そう思うとかわいらしい。ツンデレとはまた違う。悪気ゼロのイジメっ子。  イジメられてるニューイも本気で嫌がっておらず、怒る時は怒るみたいだ。  ──なんだ……俺が心配することなかったのか。 『なぁに笑ってんの? アレくん』 「いや、別に。次はズーズィに触られても避けねーように気をつけようって」 『お! イーイ心がけじゃね〜』  ニューイイジメをやめるよう説得しに来た九蔵だが、ひっそりとズーズィに心の扉を若干開く。
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