第二話 気になるモテ期

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 そんな九蔵の肩に、機嫌のいいズーズィがとっとこと登った。 『アレくん! 名前なんだっけ?』 「今更か。桜庭の時はちゃんと覚えてくれてたのにな……個々残 九蔵です」 『そうそう。クゾー。アハッ、覚えた覚えた。クーにゃんな!』 「クーにゃんではないですね」  覚えた上で魔改造するなんて酷い。  どうしていつもやたらカワイイあだ名を付けられるのだろうか。  げんなりと苦笑いする九蔵にお構いなしのズーズィは、九蔵の頬にチュウ、とネズミキッスを送る。 『うっわ、ヤバうま』 「はっ……ん、っ……」  それと共にスルリと微かになにかが抜けて、九蔵は慌てて頬を押えた。 「はぁ……あのな、つまみ食いしたら、ニューイにバレるぞ」 『むふ。ダーイジョーウブ。悪魔との約束宣言は交際と同じ、仮の契約なんだよね〜』 「げっ」  そんな話は聞いてないぞ!  九蔵の顔が苦虫を二、三匹噛み潰したような渋面になるが、ズーズィには関係ない。なんてやつだ。ネズミ一匹に一日振り回されて、こちらは心底疲れ切っている。 『クーにゃんがニュっちを大事にする限り、ボクがクーにゃんの恋の味方になってあ、げ、る』 「いやいや、恋はまだしてねーからご遠慮します……」 『あっは! なに言ってんの? ボクがご希望のスペシャルイケメンで尽くしてたのに、今日一日ずーっと目の前でニュっちのことばっか考えてたじゃーん』 「っな、なん……っ!?」  ──なんでバレてんだ……!?  無意識にニューイのことばかりを考えていたことがバレていたと知り、途端に頬が溶けそうなほど熱くなった。  これは恥ずかしい。  本気じゃない。まだ好きじゃない。そう言っていたくせに、もう手遅れなまでに夢中なことが、バレてしまった。  ズーズィは素早く九蔵の肩から降りて、小さな手で口元を押えニシシと笑う。 『ガチ恋してるくせにもし(・・)とか誤魔化してバレバレで、恥ずかしいや〜つ〜! プププ! かあいそ〜!』 「うぁぁ……っ、も、あんま言わねーでくんねーかなぁ……っ」 『やーいやーい! クーにゃんバーカ』 「ドブなんだよ……っあのレベルのイケメンにリア恋するとか、ドブなんだよぉ……っ」 『あはっ! うっぜー! まぁ自覚したなら行動あるのみじゃんね?』 「はぁぁ……逃げ場ねーなら頑張るけど、俺の恋愛ベタは小学生レベルだぜ……」 『小学生でもセックスくらいしてるでしょー?』 「モラルっ! コンプライアンスっ!」  コンプライアンスはちと違う。  真っ赤に茹で上がった九蔵をイジメて、ズーズィはご機嫌ルンルン。最高の気分だ。  ズーズィにとって、イジメるということは〝お気に入り〟なのだということを、九蔵は知らないのである。 『でーもさ。ニュっちはド健全お子様悪魔だから、ガチで狙うならサクッと押し倒したほうがいーよーん? 体から躾けるべし』 「俺、童貞なんですが……!」 『アハッ! ケツで抱けし!』 「画面の向こうでしか抱かれたこともねーんですよ!」  ギャーギャーチューチュー。  サクッと認めずに逃げていた恋心を発見された挙句散々からかわれた九蔵は、一応、恋のアドバイザーをゲットしたのであった。  なお余談だが、ケツは後日がっつり揉まれた。揉みしだかれた。  結果、一人ハブられたニューイにもケツを揉ませることになったのだが……それは別の話である。
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