第二話 気になるモテ期

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  ◇ ◇ ◇  それから公園で解散したあと。  ロッカーから取り出した謎のミルク料理を夜勤明けで下ネタ変人テンションがハイな澄央にシェアハピし、九蔵はニューイと二人で帰宅した。  もちろん悪魔様は隠密に、だ。  レイベンのサングラスとパン柄のほっかむりを装着させて、高身長イケメンが注目されないようコソコソ帰ってきた。  道中ニューイはなにを思ったか塀の上に上ろうとするので、反射的に頭突きをした九蔵である。  おのれは猫か。ガードレールもフェンスも道じゃないだろう。  純然たるツッコミなのだが、九蔵に頭突きをされてガーン! とショックを受けたニューイは、九蔵の服の裾をちんまりと摘み反省の意を示していた。  同じ悪魔でも桜庭(ズーズィ)にはできたのに、ニューイにはスマートなエスコートなんてできない。  頭突きをされただけでべそをかく悪魔なんて、世界中探してもこいつだけだ。 (はぁ〜……こんなに手ぇかかるのに、めんどくせー人種だってわかってて、それでもいいって思うとか、もうな……) 「……つか、今日俺を追いかけてきた理由とか……もうなぁ〜……」  ニューイが残した家事と夕飯に風呂、歯磨きを終わらせた九蔵は、ベッドに腰掛けため息を吐く。  ズーズィという天性のイジメっ子協力者を得て逃れ続けた恋の自覚と向き合ったが、認めてしまうと、もうダメだ。 「ふむ……文字の画面が大きくとも、打ち込まれている文字のフォーマットが小さいので、アンバランスな気がするぞ……」  本日のショッピングの戦利品──ニューイ用のスマホを手渡してから、真剣にスマホを打っている姿すら、ダメなのだ。 「……よし、できたぞっ。見てくれたまえ、九蔵っ!」 「はい」  ニヘラ〜、と満面の笑みを浮かべていそいそとにじり寄り、ニューイはスマホの画面を見せる。  画面は九蔵とのトークルーム。  打ち込んだメッセージは『いつもたまごやきとてもおいしいです』。 「これを九蔵に今から送るのだ。ムフフ」 「…………」 「さぁ送ったぞ。これで九蔵は画面のイケメンやズーズィではなく、私とお話ができるのである!」 「…………」 「テレパシーが使えない人間と同じように、機械でメッセージを送る……フフフ。私も人間生活が板に付いてきたようだね……!」 「…………」 「……? 九蔵?」  メッセージを見て黙り込む九蔵を、ドヤ顔なニューイが不思議そうに見つめた。  しかしながら体がワナワナと震え、ニューイを直視できそうにない。 「……かっこいいより……かわいいが、くると……」 「くると……?」 「それはもう……もう……ッ!」  ──マジラブ手遅れパーセントガチアウトなんですよぉぉぉぉぉぉッ!  九蔵は両手で顔を押さえて、そのままバフッ! とベッドに倒れ込んだ。  突然倒れる九蔵にニューイが「んっ!?」と驚きオロオロと慌てるが、今は顔を見られたくないし起き上がることもできない。  ああ、そうだ。  乙女だ。完全に乙女化した。  ティーンも大爆笑必須の恋する乙女だ。実はそれなりに前からヤバさしかなかった。
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