第三話 恋にのぼせて頭パーン

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「ニューイが寝巻きに着替える時、下着の状態でベッドに来てくれたら教える……とか」 「んっ、お易い御用だ」  あっさり提案を受けたニューイは、嬉しげに立ち上がる。やはり子犬だ。かわいい。不覚にも癒される。  ニューイはいそいそとお出かけ用の人間の服を慎重に脱ぎ、下着一枚で寝巻きを抱え、再びいそいそと九蔵のもとへ戻ってきた。 「へへ、九蔵、これでいいかな」  ──あダメだこれ無理なやつだ。  実に眩しいニューイの笑顔と歩み寄る裸体を前にすると、人は未来を見通す。  普段九蔵は生着替えシーンを見ないようにしていたので、ニューイの肌色率が高いスチルには耐性がない。  当然恋する乙女でありニューイ推しイケメンオタクである九蔵は、光の速さでタオルケットの中に引っ込んだ。 「ほぁっ……? く、九蔵?」 「いや無理……全然無理……ライブツーディーがなんぼのもんだコレ……無理オブ無理……乳首とか無理……腹筋とか無理……意外と胸板厚めなの生で拝むと無理の無理で無理……無理の優勝……っ」 「あぁっ! 九蔵ムシがでんでん九蔵ムシに……っ!」  進化したのか退化したのかわからない名前をつけられようが、ツッコミを入れる余裕もない。  しゅーんと心配極まるニューイの声を聞きながら、九蔵はプルプルとタオルケットから手を伸ばした。 「電気を……電気を消してくれ……」 「うむっ」  直後バツンッ! と照明の紐が引きちぎられる音がする。部屋の中は月明かりのみに照らされ夜色に染まったが、尊い犠牲だ。  うっかりしたニューイはアワアワと慌てて、九蔵にバレる前に指カッチンで直す。  なにも言うまい。バレバレだとしても、直ったのなら文句なしだ。慣れた。  そうして部屋が薄明かりになったことで復活した九蔵は、タオルケットを羽織るようにして体を隠し、起き上がる。 「ゴホン。……なんだ、俺がムシになっていた理由ですが」 「うむ」 「ちょっとお願いがありまして」 「お願い? いいとも!」 「まだ言ってねぇ」  よじよじとベッドに上がり九蔵の目の前で待機するニューイは安定のニューイだ。ピュアっ子過ぎる。  九蔵は煌めく双眸から慣れたように焦点をボカしつつ、被っていたタオルケットを肩から落とした。 「ほ、ほぁ」 「えー……っと……」  パンイチで待機していた、相変わらず背が高いだけで貧相な九蔵のボディ。  あるはずの服がない九蔵を前に、ニューイが微かに目を丸くして頬を染めたような気がする。気のせいだろう。 「なんつーか、今夜の餌やりは……そう。あれだ。俺の中も触ってほしいって感じで……」 「おぉぉ……ぉぉ……」 「で、そのためにはお前も脱いでたほうがそれっぽい……だろ? ……よな?」 「うむ。確かに九蔵が脱ぐならそれに合わせるのがよい関係だ」  ──よっしゃ!  意味なく腕を擦り、リンゴ色の顔でボソボソと提案した九蔵は、内心ガッツポーズした。  普通に誘うより、さりげなく後ろも使うような行為に持っていけばその後抱いてもらいやすい、──はず……!  誇り高き童貞処女には、ムード作りなどできなかったのだ。 「しかし中と言うと、魂の器をガッツリと」 「そっちじゃないです。それだけは絶対に解禁しません」 「うむむ、もの凄く気持ちいいはずなのに……!」  魂おさわりを目論みつまみ食いをしようとするニューイへノーを突きつけると、ニューイは「それじゃあどこだい?」と不思議そうに小首を傾げる。  九蔵はおずおずと後ろ手を着き、そのままゆっくりと、生じろい足を開く。 「こ……ココ」  一応、これが個々残 九蔵の、精一杯の誘い文句なのであった。
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