フルーツ白玉

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夜の田舎の舗装道路、対向車のヘッドライトを少しまぶしく見つめながら、はじめて母がこの先いなくなることについて考えた。 私は結婚できなかった。いや、結婚しなかったといったほうが正しいのかもしれない。母と二人の小さな大切なお城をずっと守ろうとしてきて、守ってきたつもりで、でも実際母が倒れたときに、どうしたらいいのかわからない。 それに、こんなに長い間一緒にいて、私は母が風邪をひいたらフルーツ白玉が食べたくなるひとだってことすら知らなかった。 母は私の好物ばかりを、いつも食卓に並べてくれていたのに。上の空でいたら、白玉粉と、なぜか自分が食べたかったチョコおかきを買って帰路についていた。 ***** 戸棚の中に桃缶があって本当によかった。そう思いながら、桃缶の汁と、手作りのシロップを混ぜて、冷蔵庫にあったポッカレモンをたらした。 加減がわからなくて、ざるのなかには山のような白玉があって、私は途方に暮れる。二人で、食べきれないと思う。でも、母がいなくなって一人になったらなおのこと食べきれない。 母を看取ったら、私は自分のために料理など、きっとしない。スーパーのお惣菜を買ってすませたり、宅食弁当を届けてもらう人生になるだろう。 「フルーツ白玉、できたよ」  
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