一目惚れ

3/3
1113人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
有希が和泉に初めて出会ったのは、就職試験の面接の時だった。 ビルの入口がわからなくてウロウロしているときに、声をかけてくれたのが和泉だ。 「もしかしてビルの入口を探しているのか?」 「は、はい…。」 「ここ、分かりづらいだろう。こっちだ。」 そう言って、ついてくるように促す。 案内された場所は本当に分かりづらく、和泉がいなかったら見つけられなかったかもしれない。 「ご親切にありがとうございました。」 丁寧にお礼を言うと、 「一緒に働ける日を楽しみにしている。」 と言って、有希の頭をポンポンと撫でた。 その時に和泉がふっと微笑んだ顔はとても優しくて綺麗で、今から面接だということを忘れそうになってしまうくらいドキッとした。 (この会社の人だったんだ。名前わからないけど……、もし受かったらまたあの人に会えるかな?) そう思いながら望んだ面接。 有希の中で忘れられない思い出だ。 和泉が有希のことを覚えているかはわからないが、有希はずっと気になっていた。 だが入社後配属になった総務部に和泉の姿はなかった。 しばらくは仕事を覚えることでいっぱいでまわりが見えず、和泉が隣の人事部にいることに気付いたのはずいぶん経ってからのことだった。 見つけたときの心の震えようは、何とも言いがたい。 (たぶん私は和泉課長に一目惚れをしたんだ。) それは憧れに近い一目惚れだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!