マスク

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 同僚の中沢さんが私の椅子に躓いてよろめき、懸命に踏みとどまろうとしたのも虚しくついには悲鳴とともに転んだのを見て、私は大声で笑った。 「あっはっは、派手に転んじゃったあ」  すると離れた席から聞いていた吉原部長が珍しく激昂し、怒鳴った。 「丸山さんっ、君に人を思いやる心はないのかっ」  周囲は沈黙し、私は青ざめた。膝をさすりながら起き上がった中沢さんが、素早く答えた。 「私は大丈夫です! ご心配ありがとうございます」  向かい席の内海君が立ち上がって彼女を覗き込み、優しく尋ねた。 「本当に大丈夫なの、中沢さん」 「うん。ありがとう内海さん。本当に平気よ。丸山さんもね、気にすることないから」  私は小さくうなずいたが、顔を上げることができなかった。吉原部長を「怒鳴りつけるなんてパワハラです」とやり込めてやりたかったが、さすがに言えなかった。  またやってしまった。  思いやりのないことを言ってしまっては後悔し、事あるごとに「私は短気で困っちゃう」とか「牛乳嫌いでカルシウムが足りないみたい」などと自虐して周囲への印象操作に努めてきたが、もう限界かもしれない。 「丸山さん。これ」  パソコンのキーボードを眺めながら辛気臭い顔で悩む私に、内海君が何かを差し出した。
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