マスク

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 中沢さんも意外そうな顔をしたが、きちんと返事をしてくれた。 「実は昨日、彼氏と喧嘩したのよ」 「……かわいそう。眠れなかったのね」  またもや私の口から適切な言葉があふれ出した。  内海君が微笑と共に席を立った。 「丸山さん優しいね。そうなの。ちょっと聞いて……」  その後、いつもとは毛色の違う会話が続き、双方実に和やかな表情で仕事に戻ったのだった。  私が首を傾げながらお茶を入れに給湯室に行くと、内海君がコーヒーかなにかをかき混ぜているところだった。 「丸山さん。マスク、効いたでしょ」  内海君は私を一瞥し、さわやかに笑った。 「いや、効いたっていうか。すごすぎ」 「悪いものじゃないよ。僕は使わないから、後で箱ごとあげるよ」 「……うん」  それから私は毎日風邪予防を口実にマスクを装着し、その効果を実感し続けた。  失言をしないことの効果を。
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