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2話 趣味と実益
若者たちが行き交う街のビルの一室では、ある占い師がよく当たると評判になっていた。
外まで人が並ぶ盛況ぶり。並んでいるのはいずれも10代から30代くらいの精力に溢れる若者たち。
占いの部屋は、暗い照明、赤いビロードのカーテン。寒々とした空気。
占い師はタキシードに蝶ネクタイ。シルクハットにマント。髪を美しく整えた、細身で長身の見るからに紳士。
占い師は客が部屋に入ると丸テーブルの前の椅子を勧める。
冷たく優しい微笑みを口元にたたえる。
「今日は、どのようなことを占って欲しいのですかな?」
穏やかな調子で客に尋ねる。
この客は男女の二人連れで、二人とも20代前半くらいだろう。
二人はちょっと見つめ合ってから、女の子の方が口を開いた。
「アタシたちが、これからも上手く行くか知りたいの」
男の子の方は、少しうつむいて恥ずかしそうにした。「自分ならこんなことを人に聞くなんて出来ない」と、いったところだろう。
占い師は女の子の声を聞いて、
「それは大切なことですね……。では、お二人とも目をつぶって」
占い師はマントから右腕を出して裾をサッと背中に払い、椅子の二人の前に手のひらをかざすように差し出し、口の中で何やら呟いた。
二人は目を閉じたまま、スーッと意識が遠のくような感覚に襲われた。そしてその中で夢を見た。
夢を見終わり目を覚ました二人に占い師は、
「どうですか。夢が見えましたか。それがあなたたち二人の未来を示しているのです」と、オーバーにマントを翻して、いかにももったい付けた謎めいた調子で問いかけた。
「とても、綺麗な花畑を二人で手を繋いで走っている夢を見ました」
男の子と女の子は、二人とも口裏を合わせたわけでもなく、同じことを云った。そして、互いに驚いて顔を見合わせた。それを聞いて占い師も、我が意を得たりという顔つきで頷きながら、
「お二人とも、同じ夢を見たわけですね?お二人が見た夢は私の力でお見せしたのです。それこそがお二人の未来を暗示する光景なのですよ」
二人は占い師のことばに、とても嬉しそうな顔をした。
そして喜んで占いの部屋をあとにした。
「また来ます!」女の子が部屋の外に出るとき占い師にそう云った。
「ああ、うちの占いは1ヶ月に1度だけです。それ以上はいけません……この占いは短期間に何度もやると、とても危険なのです!」
「そうなんだ。もっといろいろ見て欲しいけど……分かりました。また1ヶ月後に」
帰って行く二人の男女の首筋には小さな虫刺されくらいの傷が二つずつ付いていた。
占い師は二人の客を見送るとまた身なりを整え、ニヤリと細く鋭い注射針のような牙をむきだして、
「この牙なら刺しても小さな痕しか残らないし、その痕もすぐに消える。
そして私は、若く新鮮な血を手に入れて、それと引き換えに人間は、確実性の高い、自分の未来を暗示する夢を見る。
趣味で始めた占いも、こんなに役に立つとは、嬉しいよ。
だてに数百年も生きて来たわけじゃないのさ」
彼が行うのは「血液型占い」ではなく『血液占い』。
そう、彼は吸血鬼だ。
トワイライト・マッチングサービス株式会社は、今日も新しい出会いを人々に提供する。
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