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花便りも届く今日この頃、どうか幸ありますように
あれから何度もここの桜の雨が降るのを見てきた。
一体、何回見たんだろうか。もう数えきれない程見てきた。
僕は高校を卒業し、無事に大学へと進学することが出来た。ただ、私立大学と言うこともあり、奨学金制度を利用しているため、将来は厳しいものになるのだろうと言う不安ばかりが後へと残ってしまう。
そして、時間の出来たこの大学生の間に、僕は母と父について、色々調べてみた。
母はどうやら中学校の先生をやっていたらしい。科目は国語。それはそれは生徒達から良く慕われていた何て言う話を良く聞いた。
それに、何の偶然か、僕も今こうして国語教師になろうと教育課程を受講中である。
一方、父は高卒という肩書を持ちながらも、ひたすらな努力で上へと登っていった努力家の真面目人間だったという。
それがあんなのに成り果てるなんて、誰も思わなかったらしい。
でも、今なら少し分かる気もする。死ぬほどの努力をして、それを支えてくれていた人が亡くなってしまったら自暴自棄になってもおかしくない。
まぁ、それを理解するのは到底無理な話だろうが。
それと、年に二度、僕は彼女の元を訪れている。
「誕生日おめでとう」
毎年の一度目は、春先の命日。そして、今日がその二度目。九月の終わり辺りの先輩の誕生日。
来る度に、墓石周辺の清掃をして、挿されてある菊の花の確認をしている。そして、端に置かれた小さな瓶に入っている花を入れ替えていた。
毎回毎回、新しい花を持ってくる。
まぁ、今でこそ、そうしているが、いつしか全部の花を持ってきてしまうだろう。その時はどうしようか。そんな事を考えるのも悪くはない。
取り敢えず、挨拶と近況報告。それを済ませると、時々、軽く愚痴も笑いながら溢していた。
「またね」
毎回、そう言って立ち去る。
人間、何時何処かで突然の終わりが来てしまうかもしれない。でも、そう言っておけば、またここに来れるような気がして。
だから、そう言う。
移ろいゆく季節。その度に、色んなものを僕達に見せてくれる。
短き花の命は永遠に。長き星の命はいつか終わりに。
そんな中で、僕達は季節に生きている。
芽吹く様々なお話。十人十色の恋愛模様。
あなたは、どんな季節にどんなお話を紡ぐのか。
––––花便りも届く今日この頃、どうか幸ありますように。––––
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