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「終わったの?」
聞こえた声にハッとなり、完全に先輩を放置してしまったことを思い出す。
「あ、ま、まぁ」
「よしっ、じゃあ、そろそろご飯でもする?」
「あ、そうですね」
って、何で先輩がそういうことを言うのかな? なんて思ったことは秘密にしておく。
ひとまず、要望を聞き出してみたが、返ってきた言葉は「なんでもいい」のみ。どころか、嫌いな食べ物やアレルギーもないと言うのだから、余計に絞り込めずに、頭を抱えてしまった。
悩みに悩んだ末、結局、元々の予定に合わせ、バターライスを使ったオムライスにすることに決める。
「あ、私も手伝う」
「えっ? いや、待っててもらって平気ですよ」
「うーん、でも、もう待つのも飽きたしなぁ」
「はいはい、分かりました」
画材を端に除けると、「こっちです」と台所へと案内し、冷蔵庫から色んな食材を出していく。
そして、先輩には食材の下拵え、僕はバターライスの調理へと取り掛かり、あっという間に二つのオムライスが出来上がってしまった。
それにしても、先輩は中々な手際の良さを見せつけてきた。全く、流石過ぎる。
ケチャップとマヨネーズを端に、真ん中に二つのオムライスを乗せた皿を置いて、箸を添えると、僕の部屋へと移動し、奥に眠っていた机を拭き、そこに置く。飲み物を再び空になっているコップに注ぎ、これで準備は終わった。
「いただきます」
「いっただっきまーす」
「……先輩は子供ですか」
「ん? なんか言った?」
「い、いえ。なんでも」
ケチャップをかけると、早速右端から崩して食べていく。
うん、美味しい。やっぱりバターライスにして正解だった。ただ、出来立てな分、ほんの少し熱いが。
箸は止まることなく、次々とオムライスを口へと運んで行き、気付いた頃には、もう皿の上にはケチャップと半熟な卵の残骸しか残っていなかった。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様。いやー、美味しかったね」
「ですね」
お皿をシンクの上に乗せ、洗剤につけている間、お風呂を掃除し、早速湯船を貼り始める。
「先輩、先にお風呂、入りますか?」
「あー、うん。そうするね」
「分かりました」
そう言って、脱衣所へ案内し、バスタオルを準備すると、僕は食器を洗いに台所へと戻る。
水でさっと流すと、水切り籠へと丁寧に並べていく。まぁ、勿論だが、こんなことにはさほどの時間は要さない。
先輩がお風呂を上がるまでの残りの時間は、ちょっと先輩を驚かす準備を始めた。
「おーい、上がったよ」
そんな声が聞こえる時には、こっちも準備を終え、下着と寝巻きを手に、脱衣所へと向かう。
ふぁあぁぁぁ。
そろそろ地味に眠たくなってきてしまった。割と食べ過ぎた感があるのは否めない。
それでも、ハッと目を見開くと、出来る限り早く、徹底的に綺麗、を心がけながら体を洗い、ササっと湯船に浸かってはすぐ上がり、体を念入りに拭いて、着替え終わると、洗濯機を早速回しておく。
急いで風呂場と脱衣所の電気を消し、台所へ戻ると、ティーポットにタイミング良く湧き上がったお湯を注いだ。
それとティーカップを持ち部屋へと戻って行く。
「お待たせしました」
「早いね。って、お、何? 紅茶? 気が効くねぇ」
「あ、いえ。違いますよ」
僕のベットで寝転んでいたのが、ドアを開けた瞬間、飛び上がり、こうして僕の持っているものに興味を示す感じ……。さては、何か変なことでもしてたな?
一旦は気にしないことにして、ティーカップにポットの中身を注いでいった。
「ん? この香り––––まさか、ハーブティー? それも、ラベンダー?」
「おぉ、流石ですね。うーん、でもちょっと惜しい」
意地悪気に告げると、六割くらい注いだティーカップを渡し、僕も手に持って、一口含んだ。ほんの一瞬だけそのままでいた後、グッと飲み込み、香りも味も堪能すると、一息吐いて、また口を開く。
「これは、ラベンダーとカモミールのブレンドです」
「おぉ。ブレンドまで覚えたんだ」
「まぁ、一番簡単なものですけど」
先輩も一口飲み、美味しいと呟いた。
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