孤独の中、届かぬ祈り

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 それからカレンダーは次々と新しい日を刻んで行き、冬休みも越し、三学期が始まって、いつしか雪の季節も終わりを迎えようとしており、風には新しい春の香りが乗り始めている。  だが、進むことを忘れた僕の部屋は、ゴミと化したキャンパスはもうどこにも収まり切らなくなっていた。  そんなある日、二枚だけ色の付いた写真を見つける。  一つは白で星のような形をした花。もう一つは鮮やかなピンク色をした小さな花の塊。  勿論、何故なのかは気にならないはずもなく、ひとまず検索エンジンにかけてみる。 「アングレカムと、エリカ?……」  ふと、思い出したように僕の机の端にある花言葉図鑑を手に取った。  ここしばらく触りすらしていないせいか、埃被っていて、日が当たっていたせいか、紙までも軽く変色していた。  だが、そんなことお構い無しに、後ろの索引からページを探し出し、開く。 「アングレカムは……って、全く、何の偶然だよ」  そこには『孤独』という文字が大々的に書かれている。あまりの偶然に、もはや運命、いや必然まで感じてしまう。  大きなため息を溢すと、続けてエリカを探した。 「エリカは……『届かない祈り』ねぇ」  なるほど。  納得さえしてしまうような内容でもあった。  けれども、本心の何処かには認めたくないという気持ちがあったのもまた事実である。  これ以上何を失えばいいのか。どれ程の痛みを味わえばいいのか。 『孤独』と『届かない祈り』の二つを見て、そう思い返す。  そう言えば、母が死んだ時もこんな感じだっけ。  父は母が死んで以来、人が変わってしまい、酒を飲んでは暴れ、タバコを吸っては苛立ち、やがて麻薬に手を染め、警察に捕まった。  だが、弱っていた上で大量の麻薬を服用したと言うのもあり、直ぐに病院に送られたと思えば、数日中に死んでしまったのだ。そして、僕には衰弱死だとしか伝えられなかった。  あまりの呆気なく捨てられたことに絶望感を覚えざるを得ず、まるで暗闇に迷ったかのように過ごしていたんだよな。  あれ? そう言えば、その時はどうやって立ち直ったんだっけ?  ふとした疑問に、何故か僕は重要性を感じてしまう。  そして、必死に探した末、記憶の底に眠っていた一つの大事な映像が蘇る。 「そうだ。そうだ」  目線は自然と僕の鞄のキーホルダーへと吸われる。  一つは、前に先輩から受け取った鮮やかな紫色をした桔梗の押し花。もう一つは、青い花が描かれているもの。  あれ? 青い花? 青い? 「あぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ」  青い。そうだ、青い。  色褪せた世界で、鮮やかな青色をしている花のキーホルダー。  どうして忘れていたのだろう。  アレは貰い物だ。あの子からの。何のプレゼントだったかまでは思い出せないが、それでも貰い物だと言うことははっきり覚えている。  ん? あの子、あの子って誰だっけ?  鮮明に蘇っていくシルエット。そして、あるものを思い出した瞬間、すべてが繋がった。  途端、僕はいてもたってもいられず、着替えると、ある場所へと出かけて行く。学校なんかサボってしまって。  この時、僕は図鑑に載っていたこの青い花のページを見ていなかった。
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