純潔にも毒あり

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 それから、何気ない会話を交わしていくうちに、足並みは自然と揃っていた。  時々、(かお)る春の花を横目に、色々なことを教えてくれる。花の色や芽吹く時期から花開く季節まで。それから、花言葉なんかも。  そんなこんなで、いつの間にか時間は経っており、空も緋色に焼け始めていた。  そんな時、彼女はふと足を止める。 「ねぇ、最初に言ったこと、覚えてる?」  最初に言ったこと? 思い返してみるが、ついさっきのことだと言うのに、映像は浮かんで来るのだが、決して彼女の言葉だけ抜け落ちているように感じた。 「まぁ、そんなもんだよね」  そんな彼女の顔には、呆れも失望も浮かんでいない。そこにあるのは、どこかやるせなさが()もった笑顔だけだ。 「あのね、こんな綺麗な桜の花にも毒があるの」  そう言って、桜色の花風は二人の間を吹き抜けていく。 「綺麗な薔薇(ばら)の茎にはトゲがある様に、こんな綺麗な花弁一枚一枚にも毒があるんだよ」  僕はまた、つい魅せられてしまった。  淡々と並べていく言葉の裏にあるのは、何なのか。  浮かんでいる表情の裏にあるのは、何なのか。  美しい彼女の裏にあるのは、何なのか。 「それってさ、人間みたいじゃない?」  哀愁(あいしゅう)に染まった声で、投げつけられる内なる想い。  それがどんな意味を持っていたのかなんて、一瞬で理解出来てしまう。でも、僕は何も出来なかった。 「自分を綺麗に見せるために誰かを蹴飛ばして、自分を美しく見せるために誰かを踏み滲んで」  込められているのは憎しみなんていう醜い感情ではない。誰かを恨むような目でも、誰かを嫌悪するような声音でもないのだ。  何か、運命やこの世の摂理(せつり)そのものが間違っているとでも言いたげな様子だった。 「君は、どう思う?」 「僕は––––」  それは、決して難しい話ではない。けど、簡単な答えなどどこにもない。  ある種、迷いのような感情に押し潰されてしまった。 「無理に答えを出さなくて良いよ。けど、代わりにさ、最後まで付き合ってもらってもいい?」 「……はい」  すると、彼女は淡いピンクの道を降りて、アスファルトの道を歩いていく。それに黙って僕はついて行った。
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