また会う日を楽しみに

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 学校を出てから、時計の短針が一周しようとしていた頃、藍の空の下、明かりが灯らず、しみったれた家へと着いた。 「あんまり綺麗なところじゃないんで、期待しないでくださいね」 「はいはい。っと、お邪魔します」 「あ、うちも親がいないんで、気にしないで下さい」 「そうなの? いつ帰って来られるとか分かる?」 「帰って来ませんよ」 「あっ––––」 「ほら、どうぞ」  客人用のスリッパを出すと、先輩の荷物も持ち、部屋へと案内した。  部屋の明かりをつけ、「好きなところに座って下さい」と言うと、一度部屋を出て、飲み物を取りに行く。  暗がりの中から冷蔵庫の柔らかな明かりに照らされつつ、コップに冷たい麦茶を注いでいった。二つ分終わると、冷蔵庫の扉を閉め、お盆にそのコップとお菓子をいくつか乗せると、戻って行く。 「すいません、お待たせ……って」  ドアを開け、視界を部屋へと移した瞬間、全身に電流が迸る。同時に背筋がとてつもない勢いで凍っていくのが分かった。 「な、な、何やってるんですか」 「何って、着替えてるんだけだけど……あー、ダメだった?」 「部屋主不在の間に……。いや、(くつろ)いでいて下さいって言ったのは、確かに僕ですけど。どうして、そう羞恥心って言うものがないんですか」  また溜息を吐いてしまう。  ひとまず、僕の机の上にお盆を置き、ある程度片付けると、着替えを取り出した。 「じゃあ、着替えてきます」 「えぇ、私を置いていくの?」 「着替えさしてくれないんですか?」 「別にここで着替えればいいじゃない?」 「嫌ですっ」  即行で切ると、廊下奥の角で急いで着替え、制服をハンガーにかけると、すぐに戻る。 「お待たせしました」 「お待たれされていました」 「先輩、それどう言う意味っすか?」 「え? いや、そのままの意味だけど」  まぁいいや。  ベット下にしまってある機材と道具一式を取り出し、棚から白紙のキャンパスを取り出した。  ついでに、もう一つ奥からキャンパスを取り出す。そして、先輩の前に置いた。 「これが、頼まれてたやつです」 「へぇ、綺麗だねぇ。ありがとう」  その言葉だけ受け止めると、すぐさま視線を準備へと向けた。  ベット脇の机を隣に立て、タブレット端末をそこに置くと、電源を入れ、一枚の写真を表示させる。  そして、鉛筆を取るや否や、早速下書きを始め、輪郭を描いていった。  走る鉛筆にあとを追う黒い線。浮かび上がるは一輪の花。水辺に浮かんでいる一輪の蓮の花。  流れ行く線はやがてその形を描き終え、鉛筆は知らず知らずのうちに相当擦り減っていた。  下書きは、このくらいか。  ふと、時計を見てみると、もう七時を指そうとしていた。
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