地獄の縄

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 薄暗い部屋に一本の縄が垂れ下がっている。押し入れに転がっていた古いものだ。何を縛っていたのか、何に使っていたのか検討もつかない。それは、私がこの家のことを何も把握していないからだろう。いや、把握させてもらえなかったという方が正しい。結局のところ、父は一度たりとも私を一人前の男として扱ってはくれなかった。  土地を半分売りに出した時のことだ。父と祖母の話し合いに私は混ぜて貰えなかった。古くに亡くなった祖父が銭湯を営んでいた名残の土地を、月極駐車場として運営していたのだが、その収入がついに厳しくなってしまったらしい。  私はただ、自分の部屋から真新しい家々が建って、懐かしい景色が奪われていくところを見守るしか出来なかった。  それに、母と別れた理由も有耶無耶のままだ。男と女の別れに口を出すつもりはない。私が夫婦のすべてを見えていたとは思えないし、仲の良い夫婦など幻想でしかなかったことは理解している。けれど、息子として別れた理由くらいは知っておきたかったと思うのはおかしなことなのだろうか。
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