139人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
ぱちぱちサイダー
青春はサイダーのようだ。痛い程に爽快だけど、それを味わえる時間はとても短い。そして過ぎ去ってしまえば、どこか物足りない、うっすらと甘いだけの水になってしまい、二度と元には戻れない。
私は今、その旬を過ぎた水の中を、ぼんやりと漂っている。
「好きだよ、怜奈」
見慣れたホテルの天井を見上げながら、佳久にしがみつく。彼は大抵の場合、服を脱がせてはくれない。今日は珍しく、着ていたセーターもロングスカートも剥ぎ取られた。でもなぜか靴下だけは履いたままだ。
佳久は「可愛い」と呟きながら、私の首筋や額に唇を落としていく。可愛いとか好きとか、そういう類いの言葉を貰って、心が華やいでいたのはあの頃だけだ。今はどの言葉を貰っても、ちっともぱちぱちしない。
靴下を自分で脱ぐべきかと悩んでいる内に、佳久はあっさりと果ててしまった。左腕を差し出されたから、それを枕にして寝っ転がる。彼の肌は温かいけど、ざらりとしていて落ち着かない。
目蓋に佳久の生っぽい唇が触れた。薄く目を開けると、彼の弛んだ顔で視界がいっぱいになった。彼は私を溺愛している。ではなぜ満たされないのかと言うと、佳久が既婚者だからだ。
最初のコメントを投稿しよう!