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木崎くんは照れ笑いし、「変わらないですね、先生」と目を細める。
そんなことない。めちゃくちゃ変わったよ。心はすっかり錆び付いて、好きでもない男に別れが告げられないような、狡い人間になっちゃったんだよ。
もちろんそう返す訳にはいかなくて、曖昧に笑って濁した。
あの頃の木崎くんは本当に素直だった。あんまり真っ直ぐだから、たまにからかっては怒られていた。そして私が先生を辞める日、瑞々しい瞳で「好きです」と告げてくれた。しゅわしゅわと切なさが込み上げてきて、それが胸の奥でぱちぱちと弾けた事を鮮明に思い出す。
私も彼が好きだった。でも私はもうすぐ社会人になるような年齢で、一方で彼は高校二年生で、こんなのダメだよねと、ろくに返事もせず終わらせてしまった。
目の前の彼も、同じだけ季節を巡ってどこか変わった。垢抜けたとでもいうのだろうか。グレーのスーツも、ふわふわとした髪型もお洒落で、彼女が横でアドバイスをしているのかなと予測がついてしまう。
彼と、可愛くて若い女の子が笑い合っている姿を想像してみる。ああ、眩しいな。もし私が彼と同じ年に生まれていたらどうだっただろう。何のハードルもなく、彼と付き合えていたかな。
こういうの、未練っていうのかな。
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