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序
風がそよぐ。
枯葉の馨しい香りが辺り一面に立ち込める。
今にも泣き出しそうな空では冬の気配を感じたのであろうか、小さく白く燃える太陽が静かに雲間に消えゆこうとしていた。
鬱々と佇む森は木の葉を撒き散らし、己の奥深くへの密やかな侵入者を阻もうとしているかのようだ。
小動物さえ気配を忍ばせるこの森に、微かな足音が響く。
ひとり、ふたりか──。
降り頻る木の葉は音を吸収してはくれない。
しかし小さな足音たちは気にするでもなく、どんどん森の内部へと侵入してきた。
次いで華やかな笑い声。
そこに悪意は見られず、森の防御壁たる枯葉は安心したように舞を止める。
木の葉が沈み、露になった声の主たちの姿は、森の警戒心を呼び起こすものではなかったようだ。
転げるように駆けて来たのは未だ悪意を知らない少女が二人。
長い髪を揺らして木の葉の海を跳ねている。
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