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駅前のマクドナルドは一九時を回ってもなお混んでいた。長蛇の列に並びながら、四人は注文を済ませると、番号札を受け取って、窓側の席に座った。外では、高架を電車が通る音がする。
「でさ、この前澄香と一緒にミセスのライブに行ったんだけど、すごい良かったの。『インフェルノ』とか『青と夏』とか、私が好きな曲もいっぱいやってくれて。ねぇ澄香、楽しかったよね?」
妃亜乃は隣に座る澄香に話しかける。イージーリスニングが流れる店内で、澄香の声はすっきりと響く。
「そうだね。大森さんの歌はやっぱり良いよね。なんか気分が盛り上がる感じがする」
「でしょー! 本当楽しかった。ねぇ今度さ、ゼップでツアーファイナルがあるんだけど、みんなで行かない?」
「それっていつあるんだよ」
妃亜乃の正面に座った大剛がスマホから顔を上げて、問いかける。
切れ長の大きな目が自分に向いていることに、妃亜乃は小さな興奮を覚えた。口調も自然と明るさを増す。
「一一月の三日だよ」
「ちょっと妃亜乃、それって文化祭の日でしょ。行けるわけないじゃん」
すかさず澄香が突っ込む。スマホに視線を落としている巧磨さえも微笑んで、四人を和やかな空気が包む。
背の高い店員が、ハンバーガーセットを二回に分けて運んできた。全員分が届くまで待ってから、妃亜乃はフィレオフィッシュを口に運んだ。いかにもジャンクな味がした。
「それよりさ、早くやる曲決めちゃおうよ。そろそろ練習に入らないとヤバいし」
アイスコーヒーを一口飲んでから、澄香が告げる。
既に他のバンドは演奏する曲を決め終えていて、全体が決まっていないのは、妃亜乃たちぐらいのものだった。
「別にそんなに焦んなくても大丈夫でしょ。今までだって何とかなってきたじゃん」
「上手い下手は抜きにして、そりゃ確かに何とかはなってきたよ。でも、私たちにとってはさ、文化祭はこれで最後じゃん。やるからにはさ、良い演奏にしたくない?」
「そうだな」と大剛も加勢する。「今度の文化祭には引退した先輩たちも見に来るんだから、恥ずかしい演奏はできないぜ」と言うが、口元にケチャップがついているので、説得力がない。目も少し泳いでいる。
妃亜乃はオレンジジュースを口にした。そうでもしないと、無意識に笑ってしまいそうだった。
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