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財布を確認したところ、妃亜乃が五〇〇円しか持っていなかったので、二人は牛丼屋に入った。
ピークは過ぎたとはいえ、店内はまだ混んでいて、二人はカウンターに横並びで座るしかなかった。立てかけられたキーボードケースが、二人の間に仕切りを作る。
大盛りの牛丼を注文する巧磨を、細身なのによくそんなに食べられるなと、妃亜乃は半ば感心した思いで眺めていた。
「え? 丘萩くん、ジャンプ読んでないの?」
どうしてそういう話になったのかは分からない。もしかしたら、店内に流れるアニメ主題歌のせいかもしれない。妃亜乃は、すっとんきょうな声を上げた。
「あのさ、男子高校生がみんなジャンプ読んでるとか、幻想だから。ジャンプは中学生までに卒業するもんでしょ」
「え? じゃあ何読んでんの? ヤンジャンとか?」
「イブニング」
「イブニング?」
「そういう青年誌があんの。知らない?」
「ごめん。知らない。私ジャンプぐらいしか読んでないから」
牛丼を食べながら話す二人。厨房からは忙しなく、それでいて片言の日本語が聞こえてくる。
妃亜乃は味噌汁を箸でかき回しながら、巧磨に問う。
「そういえばさ、丘萩くんってギターは高校からって、入部のときに言ってたよね。なんでギター始めようと思ったの?」
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