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「どうしたんだよ、いきなり」
「いや、別にちょっと気になっただけ」
妃亜乃は箸を置いて、巧磨をじっと見つめた。
巧磨はコップの水を、全部飲み干してから答える。手にほんの少しだけ、汗が滲んでいた。
「大した理由じゃないよ。ほら、うちの高校って、生徒は全員部活入んなきゃいけないじゃん。どこでも良かったんだけど、音楽聴くのが好きだったし。吹部は女子が多くて少ししんどそうだなって思ったから、軽音にしたってだけだよ。それより、海瀬はどうなんだよ。お前はどうして軽音選んだんだよ」
「私は、小学生のときに一年だけピアノ習ってたから。それが生かせるかなーって思って入った」
窓の外では、相変わらず人がひっきりなしに行き交っている。
妃亜乃は隣から「やべぇ」という声を聞いた。巧磨が慌てた様子で、牛丼をかきこんでいた。
壁掛け時計はいつの間にか二時を指していた。これでは澄香に何と言われるか、分かったものではない。
妃亜乃も大きな口を開けて、牛丼をかきこむ。濃い醤油の味がした。
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