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──後悔なんてものは、しても無駄なことだと知った。  当時の俺は自分ことで手一杯で、君の不安を受け止めることができなかった。両親が離婚してしまうかもしれない。  どちらも大好きだった君はただ俺に、”大丈夫”って言って欲しかっただけかもしれないのに。 『奏斗までいなくなってしまいそうで怖いの』  どうして大丈夫だよと言えなかったのか。  連日の愚痴。わかっていたのに。自分のことしか考えられなかった俺は、酷いことをいって連絡を絶った。  連絡を拒否しやっと冷静になったころには手遅れで……。  君に逢いたかった。  家を知らなくて、二人でいったとこ何度もグルグルして。  謝りたかった。  ホントは別れたくないよって。  君が好きだよって。  伝えることが出来ないまま高校の卒業を迎える。  春休みにはいっぱいデートをしようって約束したのに、何も果たせないまま。君とさよならをしたあの秋から、隣にいない君の事を想ってる。  まだ数ヶ月、これからきっと何年も。  君と出逢ったのは高等部時代に通っていた塾でだった。  他校生で接点はなかったけれど。  男子生徒に話しかけられてはにかむ君が気になった。男慣れしていないところが印象的で、気付けば目で追うようになっていた。 『ねえ、俺とつきあってよ』  強引なアプローチ。  君はとても驚いていた。  大人しくて純情そうな君は困った顔をしていたものの、 『何もしないから』  俺の言葉にしぶしぶと言った感じでOKをしてくれた。  髪は染めていたし軽い感じの見た目だから、警戒されていたのかもしれない。 『ねえ、見て奏斗』  送られてきた写真。  それは青空だった。  まるで彼女の心のような澄んだ青空。 『今日は、良い天気だよ』  そんなに遠い距離ではないはずなのに、逢えない時はとても遠くに感じて。   二人のデートは塾の後のホンの数十分だけ。  それでも幸せだった。 ****  ”恋人”というのは、愛する権利なのだと思った。  逢えない日は、彼女から来るメッセに心躍る。高校を卒業したら、きっと共有する時間がたくさん増えて、今以上に幸せな毎日が来るのだと思っていた。  壊したのは自分。  互いにバイトもしていたから、バイトのあとの”おつかれさま”の一言がどんなに嬉しかったか。  ただ、君のいる毎日が宝物だったのに。 「白石、いいのか?」  別れたあとは彼女を忘れたくて遊びまくった。  女をとっかえひっかえしてるという悪評が流れるくらいに。  誤解を解く気にもなれなかった。 「何が」 「彼女いたんじゃなかったっけ?」 「別れたから」  誘われるままに遊びについていく俺を友人は心配してくれていたけれど。何もかもがどうでも良くなっていた。 「白石くん、彼女と別れたんだって?」 「ん? ああ」 「じゃあ、わたしとつき合ってよ」 「そのうちな」  軽く見られるのか、以前からモテた。  顔の良さは親に感謝すべきかもしれない。 「何見てるの?」  ついクセで見てしまうスマホの待ち受けは、ずっとあの子がくれた写真のまま。変える気もない。  それはまるで時間が止まったままのように。 『愛美(まなみ)』 『うん?』 『手、繋いでいい?』  彼女が大切すぎて触れるのも躊躇った。  彼女はくすくす笑って手を差し出してくれる。 『何笑ってるんだよ』 『だって白石くんって軽そうに見えるのに真面目だから』 『よく言われる』  繋いだ手から伝わる体温。  ああ、ちゃんと繋がってるんだなと思えた。  幻じゃないんだなと。 『名前、呼んでよ。俺、彼氏なんだし』 『えーっ……恥ずかしいよ』 『いいじゃん。お願い』  耳元でそっと懇願すると、 『奏斗』 と、小さい声で呼んでくれた。  その瞬間、世界は色づいて。  ああ、生きてるんだなと思えたんだ。
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