啓示その参。

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「何か願え! 幸せになりてぇとか、誰か助けてくれとか、そういうやつを!!」  願いの短冊がなければ、俺には何もできない。父親を起こすことも、人を呼ぶこともできない。 「このままじゃお前、死んじまう!!」  夢叶はうつろな目で紫色の唇から白い息を吐き、膝を抱えたまま室外機にもたれた。硬く縮こまっていた身体の力が抜けていく。その両目が、ゆっくりと閉じた。 「寝るな! 寝たらダメだ! なんか、なんか言えって、頼むから! 夢叶!!」  叫び続ける俺の目の前を、白く細い手がスッと横切った。その手は迷いもなく、俺の着物の(たもと)から一枚の短冊を取り出す。見上げると、その手の主は狐舞喜だった。 『この子がいつまでも元気で、幸せに暮らせますように』  掲げられた短冊には、そう書いてある。 「夢叶君が生まれたばかりの頃の、母親の願いごと。7年前のだけど、時効なんかないでしょう?」  狐舞喜は微笑みながら、その短冊を俺に差し出した。 「あの頃は神様(あんた)が背中を押さなくたって、三人は十分幸せだったのね」  だから残ってたのか。俺が却下したから、ずっと袂に。  俺は胸がいっぱいになって礼も言えず、その短冊を引ったくった。懐から(チケット)を取り出し、顔の前で手を合わせる。  パンッ!  俺たちにしか聞こえない音が夜空に響き、光る短冊がゆっくりと天に昇っていった。
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