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自分の無力さに反吐が出る。短冊があっても札がなきゃ、俺はなんの役にも立たない。
神なんて、だから嫌なんだ……
「大事なときに泣かないの。恥ずかしいわよ」
うなだれた俺の頭上で、狐舞喜のピシャリとした声が真冬の空気を震わせる。そして俺のぼやけた目には、白い手で差し出された札が映っていた。
「使って。ちょうどあと二枚あるわ。あんたに……この子にあげる。私からのクリスマスプレゼント」
「え……?」
狐舞喜はニッと笑い、アホ面で見上げる俺をせっついた。
「早く!」
受け取った札と短冊を、一枚ずつ合わせる。ぎゅっと固く、強く。歯を食いしばって目を閉じ、それを空に放った。
雨に濡れることのないふたつの「人」が、暗闇をわずかに灯しながら天に昇っていく。その灯りがすっかり見えなくなったとき、濡れた路面を走る車輪の音がした。
ガラッと窓の開く音で振り向くと、向かいのベランダに再び茶髪ボブが出てきた。
「おまわりさん! そこ、そこのベランダ! 二階の! 分かります? 丸まってるの! でも、ただの毛布とかだったらごめんなさい!」
角を曲がってきた自転車に、彼女が叫ぶ。雨合羽を着た男は夢叶の家の前に自転車を止め、懐中電灯を点けて答えた。
「通報ありがとうございます! 寒いですから、家に入っていてください!」
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