87人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は巡査が松木家のチャイムを鳴らすのを、固唾を飲んで見守った。何度も響くチャイムと、ドアを叩く音。
「松木さん、松木さんいますか!? 警察です!」
荒々しい声で目を覚ましたのか、玄関から父親が顔を出す。短い事情説明の後でドタドタと二階に駆け上がる男たちの足音を聞き、俺と狐舞喜はそっと夢叶のそばを離れた。
「いいのかよ?」
ベソをかいた恥ずかしさでボソッと聞いた俺に、狐舞喜は微笑んだ。
「いいのよ。寛大なのが私たちの取り柄でしょ。クリスマスだろうとお盆だろうと、人間が幸せならそれでいいの」
「そうじゃなくて、お前の氏子のぶんは……」
札を二枚も譲ってもらっちまった。年末にもし何かあっても、狐舞喜は自分の大切な氏子を助けることができない。
「私の神社ね、先月潰れちゃったの。だからもう、誰もお参りに来ないから」
狐舞喜は俺から逸らした横顔を気持ち上向けて、ぽつりと呟いた。
「……は?」
潰れた? 稲荷神社が?
狐舞喜の拠りどころだった掃除の行き届いた本殿を思い出し、俺は絶句した。
彼女はベランダの夢叶が毛布に包まれ、温かい部屋に運び込まれるのをじっと見つめている。俺が何も言えずにいると、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!