啓示その壱。

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 大声で叫んだところで、誰に聞こえるわけでもない。俺は老朽化した本殿の床にごろりと横になった。却下した短冊が、板の間に投げ出された着物の(たもと)に吸い込まれていく。  俺は住宅地にぽつんとある小さな神社の神だ。歳なんかもう忘れちまうくらい、だいぶ長いこと神やってる。人間みてぇに退職したいけど、俺らに定年なんかないから永久にタダ働き。真面目になんか、やってられるわけがねぇ。  寝返りをうったとき、鼻先にぽこんと新しい短冊が現れた。 『神様、お願いします。お父さんの病気が早く治りますように』 「あぁ? だぁから、お前が誰だかまず名乗れっつーの!」  言いながら、俺は格子戸から外を覗き見た。賽銭箱の向こうで、見覚えのない子ども(ガキ)がぎゅっと目を閉じて手を合わせている。 「うんん…… ?」  お前がさぁ、住所と名前言わねぇからさ、こうやって神に家までストーキングされることになんだろが。  俺はそんな言い訳を独りごちながら、ふわふわとそのガキの後ろをついて行った。背中には、まだ新しい黒いランドセル。その下から突き出た細い足が向かったのは、小ぢんまりとした一軒家だった。 「ただいま」  高い声に、「おぅ」とくぐもった応答がある。玄関右手のドアを開けると、リビングのこたつから上半身を出して横たわる男が見えた。  こいつが、病気の父親か……
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