啓示その壱。

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「お父さん、これ今日のプリントと、テスト返されたやつ」  ガキが下ろしたランドセルから紙を出す。それは算数のテストで、赤ペンで花丸と100の数字が書き込まれていた。記入された名前は「まつき ゆめと」。プリントには、「松木夢叶くん 保護者様」と宛名が書いてある。  父親はその二枚にちらりと視線を投げただけで手に取らない。夢叶はがっかりした顔を見せながらも、慣れてるのか特になにも言わず、ランドセルから計算ドリルとノートを取り出した。 「病気、な……」  息子に見せないようスマホの角度を変えた父親を見下ろし、俺は呟いた。  こりゃあさ、医者じゃ治せねぇやつだわ。なんたって仮病だからな。薬も効かねぇから神頼みってわけか。  どうやら何日も仕事に行っていない様子だ。  俺は風呂にも入ってなさそうな父親の額に、手のひらを当てた。  ……小さな工場勤務の正社員か。あぁ、嫌な上司がいるんだな。怒鳴られて不貞腐れて出社拒否ってか。このままじゃクビになんだろうな。  父親が寝そべって漫画を読んでるこたつ。天板の上には、昼飯のゴミとカスが散らかっている。それをそっとよけて宿題を始める一年生に、ため息が出た。 「あーったく、しょーがねえなぁ。1 (チケット)使って、ちょっとやる気のスイッチ押してやんよ!」
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