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完全に日が落ちて、気温は氷点下。夢叶の顔は蒼白で、膝を抱えた体がガタガタ震えてる。最悪なのは、それが見えてるのは俺だけだってことだ。夢叶のいるベランダは暗闇に沈み、通りからはほとんど見えない。
窓をすり抜けて家に飛び込むと、夢叶の父親は一階のリビングにいた。前と同じように泥酔し、いびきをかいてこたつで寝ている。
「やばいだろ、これ……」
夢叶がベランダにいる経緯は分からない。何か悪さをして締め出されたのか、自分で出てアクシデントで鍵が閉まったのか。前者だとしても、父親だってそんなに長いこと息子を真冬のベランダにいさせるつもりはなかっただろう。
「おい、起きろ! てめえ、寝てる場合じゃねぇだろ!」
怒鳴っても、神の声は人間には聞こえない。
ベランダに戻ると、夢叶がふと顔を上げた。俺の気配に気づいたわけじゃない。空を見上げる白いその頬に、ポツリと雫が落ちた。
こんな時に、雨かよ……
俺は舌打ちした。夢叶のいるベランダの庇は短い。7歳の小さな体が、みるみる氷雨に濡れていく。
クリスマスイブの土曜日、住宅地の人通りは少ない。誰もが首を縮め、早足で歩き去る。そのうえ雨まで降ったら、通行人に見つけてもらえる可能性は絶望的だ。
「夢叶……」
聞こえないと分かっていても、黙っていられない。俺は雨を遮ることもできない身体で夢叶を覆うようにして叫んだ。
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