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兄貴の本当の夢
高校二年の夏。
俺、神崎祐二は両親と喧嘩になった。
両親と顔も合わせたくなかった俺は家を飛び出し、一人暮らしをしている兄貴の家へとやってきていた。兄貴は医者をやっており、俺が誰よりも信頼している人だ。
「祐二はすごいなぁ、あの親父達を相手に反抗できるなんてさ」
兄の神崎健一はケタケタと笑いながら冷蔵庫から缶ジュースを取り出して、俺に渡してくれる。喉が渇いていた俺はジュースで喉を潤した。
「だってさ、絵の勉強がしたいから美大に行きたいって言ったら、絵なんて遊びのために金は絶対出さん!って言うんだ。今まで俺に対して無関心だったくせにさ。俺は真剣に絵で仕事して行きたいって思ってるのに、親父とお袋は全然分かってくれない!」
次々に怒りと不満の言葉が口から飛び出してくる。俺が愚痴る間、兄貴は黙って話を聞いてくれていた。
「俺は祐二が描く絵が好きだけどなぁ~。実際、有名なイラストコンクールで何度も賞を取ってるし、それに祐二がどれだけ努力しているかも知ってるよ」
ペンだこが出来て絵の具が染みついた、お世辞にも綺麗とは言えない俺の手を兄貴は強く握りしめた。
じわりと目頭が熱くなり、涙が勝手にあふれ出てくる。
親父達が認めてくれなかったのが悔しくて、兄貴が欲しかった言葉をくれたからだ。
「どうしてっ……俺を、認めてくれないんだろ。俺には絵しかないのに……。何でも出来る兄貴が、羨ましい……」
「……」
天は二物を与えず―――なんて言葉があるが、そんなの嘘だと思う。
兄貴は天に二物も三物も与えてもらった様な人間で、全国の猛者達と渡り合える頭脳を持ち、スポーツ万能でしかもスタイル抜群のイケメン。そしてそんな才能を少しも鼻にかけない非の打ち所ない人徳者だ。代々医者の家系である俺の家は優秀な跡取りである兄貴を溺愛し、絵しか取り柄のない俺は出来損ないと罵られ差別され続けてきた。
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