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8 なぞの少年
「おーい、こっちへきて手つだえ!」
にせ女王がだれかをよびました。すると、その先のドアから少年があらわれました。龍男と同じくらいの年に見えるのに、黒のスーツをきています。上着の前は短めで、後ろはふたつにわかれて先が細長くのびています。白いベストと黒いチョウネクタイまでつけていました。背は龍男より少し高く、全体に細身です。そして、とてもきれいな顔をしています。この少年も、少しひかっているみたいです。
「およびですか?」
少年がききました。
「この少女をろうやに入れておけ」
にせ女王はいいました。すると、少年は翠の両わきの下に手を入れて引っぱり、奥の部屋へ引きずっていきました。龍男は翠をとりかえそうしましたが、にせ女王におさえつけられて動けません。ものすごい力です。どんなにもがいても、びくともしません。
翠は、ドアの先にある鉄ごうしのついたろうやへ入れられました。そして、ガシャン! とびらがしまって、かぎがかけられ、翠はろうやにとじこめられてしまいました。
「そなたはどこでも好きなところへ行くがいい。ひとりでは浄化の木の実はとれないのだからな」
「翠ちゃんをおいて、行けるもんか!」
「ふん。勝手にしろ」
にせ女王は少年からろうやのかぎを受けとると、こしのベルトにさしいれました。そして、ろうやの前にイスをおいて、その前にすわりました。それから、また少年に命じました。
「そのテーブルをここへ」
テーブルには、まだ食べ物と飲み物が残っています。少年がテーブルを運んでくると、にせ女王はテーブルの上のものを食べたり飲んだりしました。
「しばらく休むから、この少年と少女を見はっているように」
にせ女王はそう命じると、ねてしまいました。
龍男はどうしてよいかわからず、その場をグルグル歩きまわりました。すると、さっきの少年がそっと女王に近づき、かぎをベルトからぬきとりました。そして、翠が入れられているろうやのかぎをあけてくれたのです。つぎに、龍男のほうをふりかえって、手まねきしました。
龍男はあやしいと思いながらも、少年のところへ行きました。
「さあ、今のうちに、にげるんだ! いっしょにこの子を運んでくれ」
少年が小声でいいました。
少年が翠の頭を持ち、龍男が足を持って運びました。出口に近づいたところで、翠が「うーん」とうなり声をあげて目をさましました。
「あれ? なにをしてるの?」
翠がよろよろと立ちあがって、龍男の顔を見ました。龍男はあわてて、ひとさし指を口にあてました。でも、にせ女王が目をあけました。
龍男は翠をささえながら急いでドアの外へ出ました。そして、すばやく休息メーターをとりだし、あたりを照らしました。さっきの少年が、右から四番目のドアをあけて待ってくれています。
「どこへ行った? にがすものかー」
部屋の中から、にせ女王の声がしました。そして、ドアを開いて、こちらを見ました。
「そなた、わらわをうらぎるのか? 行かせるものか!」
にせ女王が少年をにらみつけました。そして、こちらへ近づいてきます。すると、かみの毛がさかだち、ゆらゆらゆれて、たくさんのヘビにかわりました! さらに、口が横に広がって、目がとびだし、ガマガエルのような顔になりました。体はどんどんのびて、大きな長いしっぽがはえ、手足が短くなって、トカゲのようになりました。
そのおそろしい姿がドアの鏡にうつりました。すると、にせ女王はハッとして、いっしゅん動きを止めました。
「アー!」
なぜか、にせ女王が悲鳴をあげました。
「急いで! あいつは、ここから外へは出られないから!」
少年もこわいのか、顔をこわばらせています。
少年の言葉を聞いて、化け物がまた動きだしました。
翠はまだふらついているので、速く走れません。追いつかれそうです。化け物にかわったにせ女王の目は、いかりで真っ赤にもえています。大きな口を開いて長い舌をだしました。そして、その舌がのびて、龍男たちにせまってきました。先がふたつにわれた舌が、グーンとのびてきました。つかまったら、食べられてしまうかもしれません。
「キャー!」
つかまりそうになって、翠が悲鳴をあげました。
「翠ちゃん、先に行って!」
龍男は翠の背中をおしました。少年が翠をつかんで、ドアの中に引っぱりいれました。
「ウワー!」
でも、龍男がつかまってしまいました。化け物の舌が達男の体にまきつきました。なんて長い舌! そして、すごい力で後ろへ引っぱっていきます。
「龍男くーん!」
翠が龍男のほうへもどろうとしました。でも、少年が翠をおさえて止めています。翠はもがいて、少年をふりはらおうとしています。
龍男はどんどん、元きたドアのほうへひきもどされていきます。龍男も必死にのがれようとしているのですが、すごい力で、とてもかないません。
「にがすものか!」
化け物の部屋まであと少しです。化け物がにやりと笑ったような顔になりました。
もう、だめなのか。
龍男があきらめかけたとき、ドアをおさえていた少年がもどってきて、龍男の体をつかんで、化け物から引きはなしてくれました。
「早く!」
少年が龍男の手をつかんで、四番目のドアのほうへ引っぱっていきました。そして、ドアをおしあけると、急いでしめました。
「うらぎりものー」
にせ女王が悲しそうなさけび声をあげました。
「あ、ありがとう……」
龍男は息を切らしながら、お礼をいいました。
「しっかりしてくれよ! きみを助けないと、翠ちゃんまであぶない目にあいそうだったんだから」
少年が龍男をせめると、翠がいいました。
「あたしが悪いのよ。もらったアメを食べたら、なんだか頭がぼうっとして、ちゃんと考えられなくなっちゃったの。もう、だいじょうぶよ。本物の女王さまを信じるわ」
少年は落ちていたとがった石で、翠にまきついているネックレスを切りおとしました。キラキラひかっていた真珠が、ここで見るとかがやきをうしなって、ただの石になっていました。
「あの部屋にあるのは、にせものばかりなんだ。金も銀も宝石もキラキラひかって見えるけど、まやかしなのさ」
「あなたはだれなの? どうして、あたしたちを助けてくれたの? あのにせ女王の手下なんじゃないの?」
翠がききました。
「ぼくはきみたちの味方だよ。なにかあったら助けてやろうと思って、あの部屋でずっと待ってたんだ。そしたら、やっぱりだまされて、にせ女王のほうへ行っちゃうんだもん。敵を知るために、あいつにつかえるふりをして、ようすを見ていたのさ。さあ、早くここをぬけよう。つぎはにじの橋だよ」
「どういうことだ? なぜ、おれたちがくるのを知ってたんだ?」
龍男がききました。
「ぼくはなんでも知ってるのさ。浄化の木の実への道も知っているから、ついてきな」
少年が答えました。
龍男はまだ、少年のことを信じたわけではありませんが、とりあえずついていくことにしました。何者なのかまったくわからないので、油断しないようにしようと思いながら。
三人は暗やみの中を、できるだけ速く進みました。やがて、先のほうに小さな光が見えてきました。きっと出口です。龍男は思いきって、光めざしてかけだしました。光がだんだん大きくなってきます。外です! 明るい世界のうれしいこと! あの化け物は追ってこないようです。きっと、あのほら穴の中でしか生きられないのでしょう。
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