狐火と温石

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「その紋はあのお城に住む偉いお人のもんだ。何か親子だと証明できる物があるのかい? 無いならお前さんが行って会えるような方じゃない」  しばらくの間、娘は思いつめたように黙って火を見ていました。平たい石をひとつ炭の間から取り出そうとして、また手を焼いたのか慌てて耳をつまむと、何度か目を瞬き涙を堪えています。  手が痛むのはもちろんですが、日に日に元気をなくしていく母を思うと、何もできない自分が情けなく辛いのです。  薬売りは黙って軟膏を指にとると、娘の手をとり丁寧にそこに塗ってやりました。赤くただれた痛々しい手は、幼い頃の妹を思い起こさせました。 「火傷は治りがおそい上に、下手をすれば悪化してしまう。きちんと薬を塗った方がいい」  高価な薬を惜しげも無く使い、大きな手で包んでくれるその人に、娘は藁にもすがる思いでした。今は自分の手のことよりも母のことの方が大事なのです。 「どうやったらお城に入れますか。もしご存知なら教えてください」 「その大事な物とやらを返して貰うつもりかい?」  娘はこくりと頷きます。  薬売りはこれも縁だろうと、何とか娘の力になってやりたい、自分ならなれるだろうと思い、 「城へ入れないでもない。私は城へも薬を卸に行くのだ。お前さんを弟子だと言って連れて行けば、入るには入れるだろう」  そう答えていました。
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