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俺のこと7
「今日から高橋先生が戻ってきたけど、数ヶ月かな?だよな?放射線科をローテートしてもらいます。高橋!しっかり頑張ってこいよ!」
俺の憧れる大先輩の三井先生が外科カンファレンスの終わりにみんなの前で挨拶をしてくれた。
今日からまた大学に戻ってきた。
なつかしいこの感じ。
正直、外に出ていた半年間よりも責任感や緊張感を感じている。
去年の春、俺は母校の消化器外科医局でやっていく決意をしたことを思い出す。
初期研修医2年目の半年を外の救命で勉強して、残り半年のうち4カ月を放射線科で読影技術をみっちり学ぶことを許された。
さらっと説明すると放射線科ではCT 検査の造影(造影剤を静脈注射として行う検査)と CT、MRIの読影を学ぶ。
読影というのは撮影したレントゲンフィルム(現在はモニター)上の病変や異常所見をレポートという形で文章にして報告する仕事で、病変を見逃さないということが1番大事な役割だ。
読影の腕は患者の病気の早期発見をする上で重要で俺は少し長めに放射線科のローテータを希望した。
今日からまた新しい生活が始まる。
医局がある別館から本館をつなぐ渡り廊下を通りながら、半年ぶりの大学に懐かしさを感じながらゆっくり歩いた。
「あれっ!?りゅうちゃん戻ってきとるやん!」
忙しそうにすれ違った看護師が俺に声をかけてきた。
外科病棟看護師の藤川さんと吉川さんだった。
「あ、お久しぶりっす」
「次どこ回ると?先生」
「あ、放射線です。また、お願いしまっす」
「頑張ってね〜」
俺は照れ笑いしながら軽く会釈をした。
外科の看護師さんとは一年目の時に関わることが多かったのもあり、自分で言うのもなんだが仲は良い方だと思う。
久しぶりの大学で潜在的に心細さを感じていた俺はたったのこんなコミュニケーションでも少し嬉しい気がした。
中央玄関から外来を抜け、検査エリアに入る。
X線撮影室やCT室、その横に放射線科(読影室)が見えた。
今日からここが俺の主な仕事場。
「おはようございます、高橋です」
「お〜先生先生、今日からやったね。よろしくお願いしますね」
「お願いします」
放射線科の先生は4名、CT室とも繋がっているので放射線技師さん達にも挨拶をした。
ここは外科とはまた違った雰囲気。
読影室は狭くてフィルムやカルテ、医学書が散在していた。
少しすると隣のCT室で早速朝の検査が始まった。
朝一番の検査は入院中の脳外科の患者さん。
次々ベッドが運ばれて、技師さん達の撮影する声でCT室が慌ただしさに包まれているのがわかった。
俺はその忙しない様子を背にオリエンテーションを受けていた。
「あ!△△さんのCT次降ろして!そしたらちょうど〇〇さん終わるから!人が足りなかったら誰か脳外科Dr.コールしていいから!」
「は、はぁぁーーい。。」
撮影の際には医師も立ち合うことがある。
患者の状態の変化をいち早く確認したいときだ。
脳外科で1番キャラ立ちしている変わり者で有名な香先生が朝から甲高い声で看護師に指示しているのが背中から聴こえてくる。
こんな先生もいたいた。
懐かしさをここでもまた感じた。
翌日からは造影やMRIの検査についたり読影以外のことも少しずつ研修していった。
他科の先生とも関わりながらその患者さんに1番必要な治療を一緒に考えていく。
放射線科医としての役割も重要であることを日々学んだ。
読影件数が多い時は残業することもあるけれどそれはごく稀で、ほとんどが遅くまで病院にいるということはなさそうだ。
これで久しぶりにゆっくり出来そうだ。
自由に飲みに行ったり、論文の資料を集めたり、自己学習に没頭したり麻雀したりパチンコしたり(え?)と充実した日々を妄想せざるを得ない。
そういえば読影する時以外、読影室のドアは開きっぱなし。
それは窓のない部屋だからせめてもの換気のために開けているらしい。
フィルムを確認している時に廊下を行き来する人が視界に入ることがあり、少し気が散るから俺的には閉めて欲しいのだけれど、それは俺の潜在的な自意識過剰のせいだろうか。
ここを通るのは主に女子更衣室に向かう医療スタッフや先にあるMRI室やリハビリ室に向かう人達だ。
俺はいつも心の中で考えていた。
ここに戻ってきてもう数日経つ。
けれど未だバッタリ会うことはなかった。
再会するのがいつなのか少し気になりはじめていた。
「高橋先生、これじゃあ見といて。後でチェックするから。お願いね」
「あ、はい」
指導医からフィルムを渡されて受け取った。
シャアカステンにガサッとフィルムを挟み、異常所見を探す。
見落とさないように注意深く。。
神経を集中して。。
すると開いているドアの方から大きなドタバタした足音が聴こえた。
俺は何事かと思い仕事を中断し確認した。
ん??
髪の毛を後ろに一本結んだ小さな子がまるで瞬間移動するかのような速さでドアの前を通り過ぎ、すぐに左折し見えなくなった。
あれは。。
まさか。。
もしかして。。。
俺は思わず下を向いたけれど自然に口元が緩んでしまう。
そう、あれはきっと桜ちゃんだ。
変わってないあの落ち着きのなさ。
やっと会えた。
俺は仕事に戻った。
「先生、どした?」
「あ、い、いや!なんでもありません!」
必死で堪えた笑みを指導医から指摘され、俺はすぐに真剣なフリをして依頼されたフィルムに今度こそ集中することにした。
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