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あの子のこと3
「も!もしもしぃ?笑」
俺はあえていつものふざけた声を出した。
じゃなきゃ照れ臭い気がしたからだ。
「も!もしもし?!」
約3ヶ月ぶりの電話。
桜ちゃんの声は相変わらず元気そうだ。
あまりにも久しぶりの電話にまだ何も話していないというのに俺達はすでに大笑いしていた。
あぁ、あの頃を思い出した。
こんな感じで毎晩笑っていたっけ。
そして笑い疲れて寝てたっけ。。笑
懐かしい。
「久しぶり!元気しとった?」
俺は少しお兄さん風に優しく尋ねた。
「元気よ!それより!アンタのせいで私の心はすっかり荒んでしまったから!」
ん?????
え??
いきなり喧嘩?
こちらがせっかくいい気分で話しかけていたのに、急にそのキレキレモードは一体どういうことだ?
ほんと相変わらずめちゃくちゃ!
「はぁ???どぉいうこと??俺そんな悪いことしとらんやん」
「したやん!嘘ばっかりついて!」
「はぁ??それならアンタも嘘ついたやん」
嘘ついたやんけ、自分だって。
深夜じゃないとかいって深夜入りだったりして無理矢理俺を部屋に呼んだやんけと代表的な嘘を頭の中で思い出してみる。
俺は嘘ついたわけではない。
好きな気持ちは嘘じゃない。
ただ無理だったんだ。
でもそれが本当に好きじゃないってことなのかな。
「桜ちゃん、彼氏できたと?」
「アンタに関係ないやん」
「あはは!そっか!あれはどうした?血ガスキット!」
「もう使った」
「あ〜っはっは!そっか!」
血ガスキット。。
そっか、使ったのか。
そりゃそうか。
でもなんだか少し寂しい気がした。
あれは俺たちの思い出なのに、なんちゃって。
血ガスキットか。
懐かしい。
俺が干渉に浸っているのも知らず、桜ちゃんは電話先で1人ムキになったり、恥ずかしがったり、嬉しがったり、悲しがったり、感情を剥き出しにして何かを話していた。
桜ちゃんは何も変わっていない。
「俺9月からそっちやけん、今家探ししよるっちゃん、どっかいいとこある?」
「病院の近くとかは?」
「なんか近すぎるのもさ。スーパーとかで看護師さんとか会ったら恥ずかしいよね、あ〜っはっは!」
プーッとお互い笑いあう。
お決まりの大爆笑。
笑いのツボは相変わらず一緒。
くだらない話をして久しぶりの長電話。
俺にとってほんの少しだけ癒しの時間が流れた。
桜ちゃんはもう前を向いている。
俺は無責任なくせにどこか安心していた。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
穏やかに電話をきった。
またねが本当にまたなのかはわからない。
ただ俺達は出会った頃の関係に戻ったようだ。
よかった。
これでいいんだ。
あの頃はあんなに近かった二人の距離が今はすごく遠く感じた。
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