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風が吹いたらまた一人。街角に立つ。そこの四辻に、ツノの生えた貴方がいたから、酎ハイを飲みます。鳴らなかった電話をかけてゼンマイ仕掛けの時計の中で、獅子舞を探すゲーム、賽の目は弌。赤い色が不吉で、すごろくは凶の罠が待ち構えていた。今日は、仏滅。聖と邪が反転する日。
夏の風が吹いてきて、今日も夕暮れ時に、宿場町に魔物が湧いてきます。山彦、山怪。おーいおーいと、風に乗って声が呼んでいる。ついて行ってはいけない。子供を攫う山鬼の声。振り袖姿の幼女が夏櫻の隣に。花弁が散っていて、は、と目が覚めました。蝉時雨。夢を見ていたみたいです。黄泉比良坂。
櫻の花が散って、宿場町の街灯の下、水路に、桃色の花弁が散っています。雪の下から、黒きものが溢れてくる…あめふらしが、魂を求めてさ迷い歩く季節がまたやってくる。不吉だから、人が死にます。綺麗な精霊流しが行われます。人が死んだのに、どうしてそんなに美しくするんですか?生と死は時に、世の中の摂理に、矛盾だ。それは、言ってはいけない、人の欲に、答える。貴方は、怖いものが、好きですか?
死は美しく彩られる。生と死は時に、世の中の摂理に、矛盾だ。それは、言ってはいけない、人の欲に、答える。「貴方は、怖いものが、好きですか?」
村の外れに荒れ野があります。そこで、小さな子供がいつも泣いています。触れてはいけないと、婆様が云います。その子は鬼の子だから。子供はそのうち大きくなって、村一番の力自慢者になって、幸せに暮らしています。誰が、鬼の子は幸せになってはいけないなんて言ったんだろう。
堕ちてゆく…椿の花が首から落ちて、道路に散乱しています。その美しいこと。よく見ると、椿の花の中に、苦痛に顔を歪める赤子の顔が見えます。どの堕ちた花の中にも見えます。みんみんみん―――。目が覚めました。幻。白昼夢。陽炎。りん―――。「心頭滅却、其方は惑わされておる」長い、不吉な、夢。
カラスの赤い瞳。隠しておいた黒電話で、あの世に電話をかける。もしもし。お元気にしてますか?壁にいつの間にか貼り付けてあった電話番号のメモに電話をかけると、泡世の、聖と邪が逆さにになった世界に通じます。そこでは時計は逆さ廻り。大人は子供に。子供は赤子に。赤子は胎児に。瓶底のサイダー、ビー玉。水槽、立ち昇る泡。
神社の、賽銭箱に死んでほしい人の名前を赤い紙に黒い文字で書くと、その人は死んでしまう真昼の魔術。夕暮れ時の神社の狐様の目は赤く動き、こちらを見ます。夕暮れ時の神社に行ってはいけない。逢魔が時。カラスと猫が横切ってゆく。線香の香りと腐った遺体の香り。
昔を懐かしんで。昔話。懐古主義。レトロ。古風な宿場町が、夏色に染まる…瓶底のビー玉青いサイダー、空の青、道なり、ひとけのない通り道、陽炎、炎天下。夏のひととき。
止まった柱時計が動き出す頃、宿場町では、鬼が舞っている。猫の目。カラスの目。賽の目も、光って、今日は仏滅、十方闇。一寸先は闇。赤い手が伸びてきて、人差し指に赤い糸を巻いてゆく。それは、呪われ子の証。夕暮れ時に、連れていかれるよ。宿場町の闇。
お寺の裏には、お地蔵さんとお墓が。近くには火葬場が。その近くに行くと、亡くなった人が燃えた匂いを思い出します。火葬場の煙突から、ほそい煙が上がっているのを思い出す。エーヤレ、コーヤレ、今頃、ご先祖様が、三途の川をわたって奪衣婆に六文銭を渡しているころでしょう。
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