引きこもりの仕事

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引きこもりの仕事

 引きこもりの朝は早い。  正確に言えば、引きこもりは時間などに関心はなく、朝だろうが、昼だろうが、寝て起きた時が一日の始まりになる。  しかしながら、大学の夏休みを機に、引きこもりとなった岡野航平(おかのこうへい)は、眠りについてからすぐに起きなければならなかった。  狭いワンルームの部屋から、コンコンと壁を叩くような音が聞こえてきた。隣の部屋からのようでもあり、どこか遠くのようでもあり、少し不気味な音がリズムよく何度もした。  航平は特に恐れることはなかった。というのも、それが自分を呼ぶ合図だと知っているからだ。  が、その合図はいつも期せずして聞こえてくる。(あらかじ)め準備をしておくこともできず、こうして眠りについてから来るときもあるので、油断できなかった。  さすがに勘弁(かんべん)してほしかった。  そう思いながらも、航平は布団から起き上がり、小さな冷蔵庫に向かった。扉を開けて、身を(かが)めて、()うようにして冷蔵庫に身体を入れた。  たまに寝ぼけていると、奇怪な行動をするものがいるが、航平は(いた)って正常な引きこもりである。
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