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「思いっ切り引っ張ってもらえる? 手を離した方が負けね」
そこでメメとヤルルは何かを察したように、お互い顔を見合わせると、敵意を露わにして、翼を引っ張り出した。
「私のぉおおおおお!」
「ヤルルのだよっおおおおお!」
翼がもげないか心配になるぐらい、二人は力一杯引っ張りあった。互いに一歩も譲らず、どんどん翼は伸びていった。
すると、獅獣から苦痛を訴えるように、悲鳴のような甲高い唸り声が上がった。
それに航平は内心でよし、と拳を握った。
獅獣には悪いが、これでどちらがより獅獣のことを想っているのかがわかる。そういう先例があった。そう。航平は昔のドラマで大岡越前の大岡裁きを知っていた。そこでは一人の子供を巡って、二人の母親が子供の腕を引っ張り、勝った方を母親と認めるというものだ。実際は痛がる子供を想い、先に手を離した方が母親に相応しいことになる。
航平はドラマのように上手くいくと思っていた。
獅獣のことを想う気持ちはきっと違いがあると。
しかし、待てど暮らせどメメとヤルルは、獅獣の翼からけして手を離さなかった。
「早く手を離してよ! ヤルル!」
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