あいつの神様

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 ミツオが絶叫したせいで、校庭の木が揺れたような気がする。  名前も知らない小さな鳥が一斉に曇り空へと飛び立った。 「なんで俺モテないの? なんで?」 「知らねーよ。坊主頭だからじゃねえの?」 「じゃあなんでお前はモテないの? なんで?」 「さあな。ロン毛だからじゃねえの?」 「髪の毛の長さってそんなに重要なの? 俺たちの青春左右するようなものなの?」 「落ち着けよミツオ」  ミツオは両手を組んで天に向かって祈りを捧げる。 「チックショー‼︎ お願いです神様、瀬川に天罰が当たりますように‼︎」 「やめろよ、瀬川はあれでも十分残念なやつなんだから。多分そのうち図鑑に載ると思う」  神様というのがいるとしたら、随分皮肉な奴に違いない。  瀬川はこのクラスどころか校内でも1、2を争うイケメンなのだが、どう見ても狂人でまともな恋愛ができるやつとは思えないのだ。  そんな奴に恋人を与えて、ミツオやマサハルのように青春を渇望している健全な男子高校生には何も与えてくれないなんて、天の神様はあまりにも(むご)い。 「俺が神様だったらなー」  マサハルが呟いた時、教室の中から強烈なビンタの音が聞こえた。  反射的に振り向くと、瀬川の長身が吹っ飛んだところだった。 「だから、やめてって言ったでしょ! もういい、やっぱあんたとは別れる!」 「そんな……どうしてだよ長谷川! ちょっと長谷川の弁当のおかずに俺の特製ソースと醤油と柚子胡椒とオイスターソースと隠し味のうんまい棒納豆味を振りかけてあげただけなのに」 「うるさい、死ね!」  あっけにとられているうちに、長谷川は肩をいからせて教室を出て行ってしまった。  マサハルは思わず乾いた笑みを浮かべた。 「ほーらな。やっぱ瀬川は残念すぎる奴だから……」 「いや、違う」  ミツオはやけに真剣な表情で呟いた。 「今のは、俺の願いが天に聞き入れられたんだ‼︎」 「は?」 「やったー! 神様、ありがとう〜〜!!」  ミツオが無邪気に天に向かってバンザイをしたので、マサハルは「すげえなお前」と悪ノリで拍手した。  今のはどう見ても瀬川のオウンゴールだと思うが、ミツオがこれだけ喜んで「俺すげえ!」を連発しているのだから、水を差す気にはなれないマサハルである。 「やべえ、俺、本気で祈ったら願い叶えられるかもしれん」 「ああそうだな。やべえ奴だよミツオはー」
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