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青い春 1
高3の日の話だ。
要と一緒に帰ろうと思い、俺は鞄を肩にかけ両手をポケットに突っ込みながら階段を下りていた。
その時隣を慌てて駆けていく人にぶつかった。
すみません!と謝りつつも走りながら去ってしまう。宙に浮くような感覚がして、溜息をつき目を瞑った。
どさっと床に倒れこんだはずだがあまり痛くない。
不思議に思い、ゆっくり体を起こすと下敷きになっているのがいた。
「要・・・?」
「悪い悪い。受け止めようとしたら俺まで倒れた。」
そういう親友の手を掴み、ぐっと起こす。
「いや、ありがとうな。お前は怪我して無いか?」
「大丈夫。それよりお前筋肉ついた?重かった……。」
要がパッパッと服についた埃を落として言う。
「弓道部ってそんなに鍛えるっけ。」
「さぁね。」
そもそも自身が体重の変化に気づかなかったけれど。
要の目ざとさにはいつも驚かされる。
なんでそんなこと分かるんだ、という事を知ってる。
何度か聞いてみたことはあったが。
「俺たち親友だろ?」
毎度決まり文句のように要はそう言う。
親友か。君にとっては、ね。
「あ、恍。髪にゴミ付いちゃってる。」
「何処だい?」
「俺がとってあげる。」
すっと髪を撫でると確かにごみ屑が落ちた。
「ありがとう。」
「別に。それより恍の髪いつもサラサラだよね。」
そういって要は俺の髪を弄る。
自分は長い黒髪を束ねているが自慢でもない。
むしろ要の髪質の方がいいんじゃないか。
そもそも女子じゃないんだから
親友でも髪をいじりあったりしないよ、多分。
そう思っても言わずに髪を弄られ続ける。
「ねぇ、恍。」
「何だい?」
要が悪戯っ子そうな笑みを浮かべている。
何となく嫌な予感がした。
「さっきね、彼女に振られちゃったんだ。」
「そう。」
君が振られることなんて珍しいね。
そうなんだよね。僕こんなにイケメンなのに。
「でさ、恍。」
自分の前に要が立った。相変わらずの高身長だな。
するすると要の手が自分の背中に回っていく。
何。どうしたの。
少しだけ体が強張るのを感じる。
「慰めてよ。」
自分を抱きしめつつ、猫撫で声のように甘えた要に
少しだけ身構えてしまう。
「はいはい。可哀想な要。」
適当にあしらったが要は不服そうに頬を膨らませた。
「そうじゃなくて、さ。」
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