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「あ、のさぁ。……ねぇ、恍。」
震える声を押し殺そうとゆっくりその名前を呼んだ。
「何だい?」
振り返った恍の目をじっと見て反応を確認する。
「さっきね、彼女に振られちゃったんだ。」
「そう。」
そんなの俺にとってはどうでもいい。
ただの言い訳。
それも自己防衛のための、だ。
居た堪れなくなって恍から目を逸らす。
「でさ、恍。」
この先を話すのに躊躇し何度も名前を呼んでしまう。
ごめん。でも本当に。
好きだから、抱きたいと思ってた。
まじで都合がいいからとか思ってない。
そうは思っても伝わらないし伝えられない。
「慰めてよ。」
「......要。自分が言ってることわかってるのか。」
わかってる。
「どうせ今日で卒業だろ?」
お前も俺のことを忘れて、横を通りこしていく。
だからいいじゃん最後くらい。
夢を見させて欲しい。
一瞬だけ恍の方を見た。
何を考えてるのはわからなかった。大事な物を諦めたような、でも少しだけ、安心したような顔だった。
「高校生活最後に見る顔が俺でいいのか?」
皮肉。いつのまにか普段の恍の口調に戻っている。
お前が、良かったんだ。
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