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要視点 10年後の今
「ねぇ、要さん。今日も遅くなるの?」
「かもね。」
「残業ですか?」
何も答えない。
「そろそろ、あの、跡継ぎの事とか…。」
「だからさ、何度も言ってんじゃん。」
朝の静寂な空間機自分の声が響く。
「君じゃ勃たないから子供は望むなって。」
「お義父様になんて言われるかっ…!」
「ごめんね。じゃあ。」
適当にとったスーツの袖に手を通し、銀行に向かう。
有明銀行。
そうでかでかと書かれた看板を蔑むように見て、自動ドアをくぐる。家業を継ぐとか、子孫を残すとかどうでもいい。そんな思いである番号に電話をかけた。
「もしもし。」
「おはよう要。朝早くからどうしたんだ?」
「恍。今日会える?」
「…会えるよ。」
一瞬躊躇ったような間に気付かなかったふりをする。
「いつものところで。」
「分かった。仕事頑張りなよ。」
「おう。」
情けないなとは分かっていても10年経った今もあいつに連絡してしまう。卒業式の日の、あれで終わりのはずだったのに。良くない関係をズルズルと。
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