セカンドフロア

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セカンドフロア

 センターのコールが鳴る。周りに少し緊張感が走る。  看護師が伝える。 「交通事故。20代前後の女性。大腿部骨折確認。出血箇所多数。頭部からも出血。脳へのダメージの可能性あります」  動く必要のある人間が一斉に受け入れるために準備を始める。  緊急搬入口へと向かい、待機をする。  救急車が現れ、ゆっくりとストレッチャーが下ろされた。  意識はどうなどの現状確認事項が、手術室へ向かう間にやり取りされる。 「もしもし。ここは病院ですよ。聞こえますか?」  看護師が同じ事を繰り返し聞くが反応は無い。 「まずは出血を防いで」  服をハサミで切り、出血箇所を探しながら輸血と点滴をする。 「ストレッチャーから移します」  1・2・3の掛け声で4人が病院の移動台へと移す。レスキューの方々は免許証から確認が取れたことを看護師に伝えると、救急車へと戻って行った。 「ショック状態が収まりません」 「MRしたいから、なんとか抑えて!」  慌ただしい状態が続く中、一番聞きたくない言葉が響く。 「バイタル低下。呼吸、脈拍、血圧が特に危険です」  一気に緊張感が高まる。 「この子、名前は? サトウミチル? サトウさん聞こえますか?サトウさん聞こえますか?」  看護師はサトウさんの手を強く握りながら、大声で呼び掛ける。  ピーっと無情な音が響き渡る。 「心肺停止! 呼吸確認出来ません」  胸に手を当て、胸骨圧迫を行いながら名前を呼び続ける。 「サトウさん、サトウさん」 「電気ショック準備完了。波形確認OKです。胸骨圧迫離れてください」 「はい、OKです。胸骨圧迫続けてお願いします」  2分ほどが過ぎ手を止めてしまうと、再びピーっという悲しい音に戻る。 「22:55死亡確認。お疲れさまでした」  ────◇────  僕は屋上の鍵を取り出し開ける。  シーツなど干す用で一般人は入れないのだが、お願いしてスペアキーを持っているのは内緒だ。  病院敷地内は禁煙なのだが、煙草に火を点ける。 「これだから、煙草が辞められないんだよな」  空を見上げながら煙を吐く。紫煙の向こうには多数の星が煌めいている。 「まだ温かかったのに、還って来てくれなかったな」  もう僕は泣かない。    大きく吐いた紫煙の向こうに、流れ星が見えた気がした。   (医療関係の知識は詳しくはありません。記憶と想像のみでの作品の為、医療行為への間違い等はお許し下さい)
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