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サードフロア
僕はいつものように、こっそり屋上に出ようとしているところを女の子に発見されてしまった。
見た感じ12,3歳ぐらいだろうか?
「あれ? 先生はそこから外に出れるの?」
頭をかきながら返答に悩む。さてさて、騙すか正直に言うか困ったものだ。
「んっとね、ここは洗濯物を洗ったあとに、干す人しか入れない危ない場所なんだよ」
とりあえず誤魔化そうとはしているが、嘘は付いていない。
「先生は洗濯に来たの?」
誤魔化すのも難しいものだ。これは仕方がないか。
「違うよ。実はここは僕が内緒で隠れる場所なんだよ」
「えーっ、なんかズルくない! わたしも行きたい!」
そうだよね。きっと僕もそう言うよ。
────◇────
「ほら、あんまりそっちには行かないで。外から見えたら怒られちゃうよ」
はーい、と言いながら珍しい場所を探検するように、少女はウロウロとしていた。
僕は貯水タンクの壁に背を預けて、地べたに座った。
そして、ここに来た目的のひとつである煙草に火を点けた。
少女は目ざとく見付けて僕の方へやってくる。
「病院は禁煙だよ! 先生の癖に知らないの?」
そうだね。きっと僕もそう言うよ。
僕はキチンと言い訳をすることにした。
「だから、ここで隠れて吸ってるんだよ。内緒内緒」
女の子は可愛く人差し指を顎に当て、首を傾げて悩んでいる。
「そっか。じゃあ仕方ないね!」
少女は笑顔で僕の内緒を許してくれた。
「そういや名前は? 君は入院してるのかな?」
「そうだよ、昨日から! 名前は立花薫って言うんだよ!」
「そっか、薫ちゃんって言うんだね」
名前を聞き、嫌な予感を感じながら脳内のリストを捲る。出てきた名前と症状に予感が当たり、少し表情が強ばる。
「さあ、そろそろ戻ろうか」
もうちょっと、あと少しと文句を言ってくる薫ちゃんに言った。
「もしも、またここで僕と会えたら入れてあげるよ。ちゃんと言うことを聞くならね」
ムッと頬を脹らませながら、検討しているようだ。昔に飼っていたハムスターを思い出し、少し笑う。
なぜ笑われたのかわからない彼女は、キョトンとしながら答えを返してきた。
「約束だよ! 会えたらまた入れてよね!」
約束する、と答えた僕は薫ちゃんと指切りをした。
小さな指の温もりが、とても愛おしく感じた。
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