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仕事以外のことに極端に興味が薄くて、自分のことにあまりに無頓着。
手続きとか将来設計とか、全然目が向かない。
ただ、俺を好きだと思ってくれていることはわかる。
だったら、俺が物事を動かしていけばいい。
嫌なら嫌と言えって、ことあるごとに美波に伝えてある。
どうでもいいが、この性格の美波に病院経営って、本格的に無理なんじゃないか?
数年付き合ってみて、康成はむしろ足元を着実に固めていくタイプとみている。真面目だし、礼儀正しいし、俺たちよりもよほど常識人。
俺が美波と一緒に暮らさなくていいって言ったときには、ポカンとしてたしな。
うん。
春休みに何日か戻ってくるって連絡が来てたから、またちょっとずつ誘導してやろう。
美波は、丁寧な字で自分の名前から住所からすらすらと書き込んで、姓を選ぶところで『夫の姓』にチェックを付けた。
「それでいいの?」
二人ともがどっちでもいいと思っていると、本当にどうやって選んでいいのかわからない。
美波は記入漏れがないことを確認して、書類を俺に返してくる。
「ん。うちには康成もいるし。あきちゃんは一人っ子でしょう。
私も高岡で働く間は、仕事上は旧姓で通すし…問題ないよ」
気持ちの上では本当にどうでもいいんだが、医師免許やら運転免許やら銀行口座やら、そういうものの変更はかなりの手間だ。
放っておくとやらないだろうから、今日全部回るか。
あれ、仕事上は旧姓を通すなら、医師免許はいじらなくていいのか?
知らないことを、手元でさっさと調べられるのは便利になった。
変更義務のあるものとないものを調べ上げ、可能な限り美波のキャリアを分断しないで済むように考える。最近は旧姓併記できる書類も増えてきているみたいだけど、それでも根本のところで戸籍をいじらなくてはいけないから。
ネットでできることは全部そうすればいい。免許は確か警察署にいかなきゃいけないんだったかな。
必要書類をサクサクと検索し、どういうルートでどこを回るか決めていった。
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