入籍

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美波が研修医期間だったこともあって、俺たちは挙式の予定はない。 俺ももちろん結婚式には興味がないし。 何年かたって…落ち着いたころに美波が望むならやってもいいとは思ってるけど。 式を挙げるとなったら、職場の人間をかなりの人数呼ぶことになるだろうし、そうなると必要以上に目立たせてしまうから、どちらにしてもしばらくは無理だろう。結婚していることを伏せろと言われている今の状況で、披露宴とかありえない。 でも、入籍自体に興味がないように見えていた割には、うれしそうにあれこれと準備をしてくれてるし、もしかして結婚式も誘ってみたら喜んだりするのかな。 今夜にでも聞いてみるか。 入籍を強行することと引き換えに、俺たちの関係を伏せることを百歩譲って受け入れた。でもいつまでもこそこそしているつもりはない。 美波が自分の立ち位置を確立するのに、一年あれば十分だろう。 周りは味方で固められている。 いずれ式を挙げたいと美波が思うなら、来年あたりで準備してもいいな。 新婚旅行も多分無理だと思ったから、年末にたったの二泊三日だけど二人で温泉に行ってきた。 俺たちにかかると、女性の夢であるらしい結婚というイベントは単なる事務手続きだ。 役所からスタートして、あちこちで作業をして回る。 俺が必要書類を全部把握して、最初に市役所で全部手に入れてから効率よく回っているからどんどん進むけど、美波はきょろきょろしながら楽しそうに歩いてる。 「次はどこ?」 「これ、何の書類だろう」 物珍しそうに記入見本を見ながら次々と作業を進めていく美波を、心から愛おしいと思う。 付き合い始めからこっち、美波には笑わせてもらうことばっかりだ。 …この人と、一生を共にするんだな。 そんなことをしみじみと思う。 この俺が、こんなふうに笑って穏やかに暮らせる日が来るなんて、昔は思ってもみなかった。 今日で、俺の一連の作戦は一旦終了…だ。
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