エピローグ

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決して、美波が院長の器でないと言っているわけじゃないんだ。 でも適材適所というか、そういうのは絶対にある。 康成がいないならともかく、しっかり育ってくれてるんだ。持っている人材はうまく配置して使うのが、上に立つ者の義務だと俺は思ってる。 美波は、明らかに現場向きだ。 年をとっても、診察して患者と触れ合うことにこそ喜びを見出す。 俺もどちらかといえばそちらよりだが、必要に迫られれば現場を離れることになっても仕方ないと思っている。むしろ、早いうちから人を使って組織を動かしていく経験をさせてもらって、そのおもしろさに目覚めつつあるかもしれない。 ただ手術の腕は落としたくないと思うし、殿前サッカー部から離れるのもまだ…十年単位で先延ばししたい。 結局、俺も現場にいたいんだよな。 大塚の規模なら、院長であっても最後まで現場に出られるから、俺が高岡を継ぐという選択肢はやっぱりありえないということだ。 今日はそんなに忙しくなかったので、午後の診療を終えた後院長室でいくつか事務仕事をこなす。 俺の現在の肩書は、高岡総合病院の副院長兼整形外科部長だ。 院長は美波の父親。 副院長は俺のほかにもう一人いて、その人は院長より少し年上の古参だ。 でも野心のない人で、院長が俺を傍に置いた時に一緒になって大喜びしてくれた。 結果、古だぬき二人が手を組んで、次々と病院の権限…というか事務仕事を俺に移行しようとしてくる。 これまで院長決済が必要だったものを、副院長の決裁で完了するように変更してくるのが常套手段。 水曜午前と木曜午後は一応そのための時間に当ててあるが、残った分は容赦なく院長の執務机に置いて大塚に帰ることにしている。 もちろんどこまでやってあるかは見ればわかるように、引継ぎは完璧だ。
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