エピローグ

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俺は、しなくていい残業はしない主義だ。 大塚では経営者だし、ここでも役職者だから、俺に残業代というものは発生しない。 大塚の方は、俺がやらなければいつまでも残るから、ぼちぼち小分けにしてやるべきことをやるけれど、ここには俺以外に何人もその仕事をできる人間がいるんだから。俺が一人で抱え込む必要は全くない。 むしろ、ここにはせっかく美波がいるのに、家に帰らない理由がない。 定時までで、置かれていた仕事の七割くらいまで仕上げて、院長室を出る。 徒歩五分の高岡家に帰り、お手伝いの久美子さんに帰宅を知らせれば、俺と美波が家にそろって十分後には二人分の食事を用意してくれる。 本当にありがたい。 入籍してから俺と美波の部屋の間の壁を取っ払って、一部屋にしてやった。 もちろん強度やなんかはちゃんと調べてもらって、必要な柱は残してある。 それから、美波にどうしてもと頼まれて、スクリーンを下ろせるようになっている。着替えのときとか…見られたくないときは美波が下ろすんだって。 あんまり使ったことはないけれど。 美波も定時は同じだから、俺と前後して帰ってくることが多い。 なのに…部屋着に着替えて、しばらく待っても美波が帰ってこない。 30分ほど待って、さすがにスマホに手を伸ばした。 残業なら別にいいんだけど、どこにいるんだ? ロックを解除したと同時に着信があった。 『…美波?』 コール音が一回鳴り切る前に応答すると、驚いたような声が返ってきた。 『あきちゃん? 早いね』 とりあえず平和そうな声で安心する。 『美波、残業か?』 だったら久美子さんに言って先に晩飯を食ってるけど…と言おうと思ったら、美波が声を潜めた。 『あきちゃん…今ね、高岡の産婦人科にいるんだけど、来てもらってもいい? 産科部長と一緒にいる。第3診察室』 『…すぐ行く』 何となく用件はわかってしまったが、ここで話していても仕方ない。
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